ティム・クック氏率いるApple環境リーダーが語る「Appleが脱炭素を達成できた理由」
「我々は気候変動を加速させた当事者です」 そんな風に堂々と認める企業が、どれだけあるだろうか。かつてアメリカ大統領が「気候変動は嘘だ」と語ったアメリカで、「気候変動を加速させた当事者の一人」だからこそ、カーボンニュートラルの実現をすると宣言し、2020年にカーボンニュートラルを達成したのがApple社だ。2022年には同社のサプライチェーンにも脱炭素化を求める「Apple2030」を公表、2023年9月に初のカーボンニュートラルな製品の発表も行っている。 【写真】Apple社のCEO・ティム・クック氏とリサさん 国連が「SDGs」を制定した2015年より前の2013年から、アップル 環境・政策・ソーシャルイニシアティブ担当バイスプレジデントに就任しているのがリサ・ジャクソンさん。2009年から2013年まではバラク・オバマ政権にて環境庁(EPA)の長官をつとめたリサさんが、Apple社のカーボンニュートラルの旗振り役を担ってきたということになる。 iPhoneやiPadにはじまり、様々な電子機器による利便性を享受し、それによって健康が保たれたり、距離を超えてつながることができている我々は、電子機器なしに生きられないと言っても過言ではない。 かたや、気候変動は切迫し、最高気温記録を更新した2023年よりもさらに暑くなることも予想されているいま、私たちができることは何か。 そのヒントをさぐるべく、リサさんにFRaUweb編集長の新町真弓がインタビュー。前編ではアフリカンアメリカンであり、女性であるリサさんがEPA長官となるまでの道のりをお伝えした。 後編では、Apple社の行動について掘り下げる。
EPA長官時代のティム・クック氏との出会い
――インターネットとiPhoneの出現により多くの人の人生が変わりました。世界中の「距離が縮まった」ことで、今起きていることを可視化できたり、話せたりします。コロナのときにもモバイルがあったからこそコミュニケーションを取ることができました。その恩恵を被っていない人はほとんどいないと思われます。 その一方で、電子機器が「エネルギーを使う」ことは間違いがありません。 Apple社は気候変動を加速させた当事者と認識して対策を続けてきたとのこと。まず「加速してきた当事者と認識していることを明言したことがとても大きいと思います。そこに至ったのはなぜでしょうか。 リサ・ジャクソン氏(以下、リサ)「私がオバマ大統領のもとで環境保護庁(EPA)長官を務めていた時(2009~2013年)、長年の間に多くの企業とミーティングを行いましたが、楽しい話ではないことも多くありました。でも、Appleとのミーティングはいつでも、リサイクルや再利用など、とてもポジティブな話題に関するものでした。その頃、まだCEOになる前のティム・クックに実際に会う機会があり、環境に対する彼自身の積極的な姿勢に強い衝撃を受けました」 ――彼はすでに環境の問題に取り組んでいたのですか? リサ「はい。その時私は彼に会う必要があったわけではなく、ただ、カリフォルニアに行き、革新で知られるテクノロジー企業のリーダーに会いたかっただけでした。すると、ティム・クック本人が現れたのです。ほかのCEOと違い、本人が来てくれました。 私はそのことにとても感動しました。というのは、これは非常に大切なことなのですが、成功させるには、トップが支持しているというだけではなく、CEOをはじめ会社全体のマネージャーたちが問題の重要性を本当に理解し、それを自らの問題としていることが重要だからです。 仕事をするのは『リサとそのチーム』だけではありません。環境に対する私たちAppleのアプローチ方法は、Appleのすべての人がある程度関与する必要がある、というものです。そうでなければ、この直営店も含め、Appleのすべての部分に関わるプログラムを持つことはできないからです。 ご存じのように、私たちの直営店は環境に配慮し、素晴らしいリサイクルの取り組みを行っています。そして誰もが張り切って取り組んでいます。このように、Apple全体で行うことが非常に重要です。私たちの取り組みは明白でなければなりません。 今ならその理由がわかります。Appleの仕事というのは本当に、エンジニア、デザイナー、マーケティング担当者など、会社全体の人々が一丸となってハードウェア、ソフトウェア、サービスに取り組んでいるのです。 そのような人々に会うと本当に刺激を受けます。このように革新性があって優秀な人たちが環境に取り組んだら何が起こるだろうと考えるわけです。 そうして『Apple 2030』にたどり着きました。 自分たちにとって本当に厳しい目標を設定しよう、ということです」