<リベリア・内戦の子供達>モモ ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
徒労だった戦い
2013年3月、4年ぶりにリベリアに戻った僕は、23歳になったモモと再会した。一回り大きくなった体の逞しさは増していたが、生活は相変わらずのその日暮らしだ。五男のジェームスが経営する飲み屋に寝泊まりしながら、モモは夜間駐車場で車の誘導の仕事をしていた。毎晩10時間以上働きながら、月にもらえるのはたったの50ドル(約5000円)。結局、しばらく続けたこの仕事も、僕がモンロビアに滞在中に喧嘩してやめる羽目になってしまった。 モモはいつもなにかに怒り、そして焦っているようだった。 彼には、物事について深く考えたり、他人との人間関係を築く能力が欠けているように思えた。普通であれば、学校で友人達と遊んだり喧嘩をしたり、家庭で両親や兄弟達と接していくうちに、人との付き合いかたというものを自然に学んでいくものだ。 内戦はモモから、そんなかけがえのない成長の機会を奪ってしまったのだろう。
「内戦が終わったとき将来に何を期待したか、憶えてるかい?」僕は尋ねた。 「もうずいぶん昔に感じるよ。だけど、なんとかいい生活ができるだろうとは思ってた。政府はおれたちが学校へ行ったり、技能訓練して就労する手伝いをしてくれるべきなのに。だけどそんな助けは全く無しさ。この10年間ちゃんと学校にいけてれば、もう高校も卒業してたはずだ」 喋りながら興奮してきた彼は、声を荒げ、怒りの言葉を吐き捨てた。 「苦労して戦って、兄さん達も失った。みんな国のためさ。それなのに、国はなんにもしてくれなかった。すべて徒労さ!戦争がおれたちを腐らせちまったんだ」 ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.