チョコレートで映画館を“救う” 知識皆無からフィリピンの農園手伝いまで…山口・萩ツインシネマ館長の挑戦
山口の昭和レトロな映画館・萩ツインシネマの1階に、クラフトチョコレート専門店「萩チョコレートガーデン」が10月31日にプレオープンする。オーナーは同映画館の柴田寿美子館長で、地域の高齢者や障がいを持った人たちと共にチョコレート作りに挑む。(取材・文/中山治美) 【フォトギャラリー】チョコレートのパッケージデザインやフィリピンの農園で撮った1枚など 萩市は他の地方都市同様に少子高齢化が著しく、人口も年々減少し、約4万2000人(令和6年4月末現在)と映画館経営も厳しい局面を迎えているが、柴田館長は「萩の街を元気にしたい」と新規事業に希望を託す。 柴田館長は異色の経歴の持ち主である。島根県松江市出身で、元県庁職員。結婚を機に萩市に移住したが、そこは花き専業農家。農業を通して地元と関わるうちに、一度は閉館の憂き目に遭い、2004年にNPO法人萩コミュニティシネマによって再出発した萩ツインシネマの運営にボランティアとして参加するように。14年には、農家と高校の非常勤講師の肩書きに、2代目館長が加わった。 以後、萩の映画文化を守るため、街の活性のためにと、思い立ったら即行動を実践してきた。地元のクズ玉ねぎと雑魚を使ったレトルトカレー「Zacco &Bussカレー」を製造し、収益の一部を劇場支援に充てたこともある。また20年からは、孤独や孤立が社会問題となっていることを鑑み、「映画館が誰かの居場所になれば」との思いで、ibasho映画祭も開催している。 今回のチョコレートプロジェクトも、その一環だ。柴田館長は約12年前、総合支援学校に非常勤教師として勤務していたこともあり、高齢者だけでなく障がい者も一緒に何か活動はできないか?と考えていたという。その頃、話題になっていたのが多様な人材を雇用し、持続可能な商品作りに取り組んでいる久遠チョコレート(愛知・豊橋)。東海テレビ制作で映画「チョコレートな人々」(22)にもなった会社だ。柴田館長は19年に同社に話を聞きに行き、「我が街でも」と奮い立ったという。 目指すは、カカオ豆から製造まで自社で行う「Been to Bar」の本格的チョコレート。ただし、チョコレート作りの知識は皆無。そこで”チョコレート博士”として知られる広島大学名誉教授で食品物理学の佐藤清隆氏に、指導を仰いだ。佐藤氏から原材料のカカオの調達先として、フィリピン・ダバオの農園を紹介してもらい現地へ。農園の仕事を手伝いながら共にモノづくりをする仲間として関係を築いたという。また資金は、経済産業省の事業再構築補助金の支援を受けることとなった。 現在はオープンに向けて、スタッフ総出でチョコレート製造修行の真っ最中。「理想とする味にはまだちょっと……」(柴田館長)だそうだが、準備は着々と進んでいるようだ。ビル2階にはイートインスペース「シネマテラス」を設置。8月25日にはプレオープン企画としてスイーツ好きを公言する落語家・桂春蝶の独演会「夏落語 DE CHOCOCAFE」を開催し、盛況を得たという。 柴田館長は「映画鑑賞後、シネマテラスでチョコレートを味わいながら皆で語り合ってもらえれば」と期待を寄せる。映画を見るだけではない。街の人の”居場所作り”としてのチャレンジが始まる。