今も逃亡中…リーマンショックの引き金を引いた男と「共犯」し、大金をだまし取った「クロサギ」の正体
16年前、全世界を大不況に陥れた金融危機。その原因を辿った先にいたのは、無名のサラリーマンだった―。カネを巡って騙し騙され、二転三転していく狂乱の「コンゲーム」の全貌がいま明らかに。 【写真】ミスチル所属事務所「50億円巨額金銭トラブル」の全貌 ---------- 文・阿部重夫(あべ・しげお)/『リーマンの牢獄』監修者。日本経済新聞記者、英ケンブリッジ大学客員研究員などを経て、現在「ストイカ・オンライン」編集代表 ---------- 前編記事『リーマンショックの引き金を引いた「懲役14年男」が獄中で詠んだ「ヒドすぎる俳句」の中身』より続く。
まんまとむしられる道化役
齋藤栄功氏を評して「よっぽど引きの強い人」と言った人がいた。なぜか彼の身辺では、時の人が常夜灯に群がる羽虫のようにじりじりと身を焦がす。 山一證券に自主廃業を命じた三塚博大蔵相、検察に追い詰められて自殺した新井将敬議員、上皇后の従兄で名門出の創薬起業者・水島裕氏……。そして齋藤氏もまた、高級デリヘルや愛人クラブから送り込まれてきた美貌の女性たちに同情し、マンションや外車を旦那気取りで献上しては、まんまとむしられる道化役。誰もがキツネとタヌキだった。 時代を彩ったのは、号泣した山一の野澤正平社長であり、失職社員の受け皿となったメリルリンチの非情人事であり、ネットの寵児が叩かれたライブドア事件。そして「池の中のクジラ」となったリーマン、ゴールドマン・サックスら巨大証券だが、齋藤氏の人生はその一気通貫なのだ。 2010年に製作された『インサイド・ジョブ』という映画がある。リーマン破綻のキーパーソンたちを、インタビューで問い詰めていくドキュメンタリーだが、バブルを煽り踊った張本人たちが色をなし、弁解に口ごもるシーンが痛烈で生々しい。 一方、日本では政治家も官僚も、そこまで責任を追及されてこなかった。リーマン・ショックの谷が先進国の中でもっとも深かったのに、新聞もテレビも原因をとことん究明する勇気がなかった。本書の自問自答は、日本版『インサイド・ジョブ』のインタビューの代わりと思ってもらっていい。なぜなら、罪と罰の両方を一身に背負ったのが齋藤氏だからだ。