あなたの会社は「存在意義」をビジネスモデルの中心に据えているか
■短期利益を重視してビジネスモデルを構築していないか これまで私たちは、ビジネスモデルについて間違ったとらえ方をしてきた。たしかにビジネスモデルとは、自社を競合の中で際立たせ、顧客に価値を提供し、顧客の実現したいことをかなえるためにある。事業を立ち上げ、組み立てるうえで、重要な決定を下すために、リーダーには確固たるビジネスモデルが必要だ。 しかし、ビジネスモデルを構築する過程では、経営効率を重視し、短期的な株主の利益ばかりを重視した理詰めのアプローチが取られてきた。それは、過去においてもよいアプローチだったとはいえず、いまも持続可能なものではない。 それよりも、長期的な存在意義のあるビジネスをデザインする必要がある。収支計画を立てるより先に、あなたの会社がなぜすべてのステークホルダーにとって重要なのかを定義しなければならない。それが長期的な株主価値を生み出し、顧客や従業員にとって持続可能なビジネスを実現する唯一の方法である。 ■ビジネスモデルに「存在意義」を加える 私の経験上、ほとんどのビジネスモデルは「いかにしてライバル企業よりもよいサービスを提供するか」という基本をきちんと押さえている。だが、自社が人々にとってなぜ重要なのかは説明していない。自社が存在することは、人々にどのような意味を与えるのか。なぜライバル会社ではなく、自社でなければならないのか。ターゲット顧客の目から見て、本当に差別化できているものは何なのか。 そうしたことに答えられなければ、市場で長く優位に立つことは難しい。いったん輝きを失い、ライバルに同じ価格で対抗されたら、顧客も従業員も失うことになるだろう。それは、長期的に自社の競争優位を築くうえでも、社会にとっても、望ましくないことだ。 金銭を稼ぐ以外に何らかの大義を持つことは、株主、従業員、地域社会など、すべての関係者にとって意味がある。成功するビジネスモデルとは、顧客、従業員、株主とつながり、長期的に魅力あるビジョンを築くものである。そして、それを実現するには、共感と想像力を持ってターゲット顧客のニーズを深く理解する以外に方法はない。 ビジネスを長く続ければ続けるほど、確信することがある。人々が何に対してお金を払ってくれているか。それは、人と同じことをするためではなく、世の中の向かう先を見極め、その未来がやって来た時にきちんと対応できるようにするためなのだ。つまり、重要なのはたゆまぬ変革である。 私が1990年代初頭に、株式公開を後押ししたオー・ボン・パンがまさにそうだった。チームが顧客の声に耳を傾けた結果、利益率の低いフレンチベーカリーを、収益性の高いフレンチベーカリーカフェに変えることができた。なぜできたのか。それは、顧客がパンやクロワッサンを求めているのではないと気づいたからにすぎない。顧客が本当に求めているのはサンドイッチであり、パンとクロワッサンは、提供するサンドイッチの品質の高さをわかってもらうために信頼性を高める強力なポイントだったのだ。 1990年代半ば、私たちは徹底的な聞き取り調査を行う中で、ファストフード以上のものを求める顧客がいることを知った。魅力的な環境で、自分を尊重してくれる人々に、「本物の食べ物」を提供してもらうことを望んでいた。この気づきは、レストラン業界の常識を覆した。私たちは、高度に加工された食品を廉価で提供するファストフードではなく、ほんの少し高い金額で、顧客が自分を肯定できるような体験を提供した。顧客は自尊心を取り戻せるお店を求めていたのだ。 私たちはこの認識に従って、オー・ボン・パンの小さな子会社だったパネラブレッドを変革した。こうした取り組みによって、広く外食産業のファストカジュアル部門が活性化し、パネラを模範として1000億ドル(現在は1700億ドル)規模に成長した。パネラブレッドに関してはさらに、2012年から2014年にかけて、会員サービス、オムニチャネルの導入、「クリーンフード」(合成保存料、人工甘味料など無添加)を軸に再び変革を実施した。どのテーマも、外食産業全体を推進する力になった。 こうした変革は、顧客の声につぶさに共感を持って耳を傾けなければ、起こりえなかった。2017年に75億ドルで売却するまで、パネラブレッドは年率25%以上の利回りを上げ、外食業界で20年間最もパフォーマンスの高い銘柄であり続けた。 こうしたことすべてのカギは、私たちの学びと、学びに基づいて変革を行ったことにある。そして、必要な変革を遂行できたのは、会社の所有構造とそれまでの成功によって、短期的効率を最大化するプレッシャーを受けなかったからにほかならない。私たちは、会社の長期的な存在意義やレレバンス(消費者が会社やサービスとの結び付きを感じること)を第一に考えていたため、顧客にとって本当に大事なものを提供できたのである。