ローラースケートにスカイダイビング、高層ビルからの落下!?ジャッキー・チェンを象徴する危険なアクション6選
ジャッキー・チェンの映画主演50周年記念作にして、ジャッキーアクション映画の集大成とも言える『ライド・オン』(公開中)。これまで数多くのアクションスタントを自ら演じてきたジャッキーが、ロートルとなったスタントマン役を演じ、愛馬との絆、失われていた家族との愛情、そして自身のアクションスターとしての人生を振り返るようなエモーショナルなドラマが話題となっている。 【写真を見る】全身ローラースーツを着用し、時速120kmで斜面を爆走する『ライジング・ドラゴン』 『ライド・オン』にはジャッキー演じる主人公、ルオ・ジーロンがかつてチャレンジしてきたスタントとして、ジャッキー自身の過去作でのアクションシーンや撮影中に大ケガを負うNGシーンなどが登場。まさにジャッキーのスタント人生を味わうことができるのだ。そこで今回は、アジアを代表するアクションスターであるジャッキーの出演作のなかから、身体を張った決死のアクションスタントを6つ選出。その危険なアクションにはどんな背景があったのかを解説していこう。 ■『五福星』/ローラースケート×カーチェイスアクション! ジャッキーの代表作であり、香港アクション映画に新たな可能性を示した『プロジェクトA』(83)。それと同時期に、ジャッキーが現代劇において初の刑事役を演じた作品がある。ジャッキーのアニキ分的な存在である盟友、サモ・ハン・キンポーが監督と主演、脚本を手掛けた『五福星』(84)だ。 刑務所で出会った5人の小悪党が意気投合し、清掃会社を開業するも、マフィアが関わる偽札事件に巻き込まれるアクションコメディ。ジャッキーが演じるのは、サモ・ハン扮する主人公たち5人に協力する血の気の多い新米刑事。主演ではないものの、劇中の大きな見せ場であるローラースケートを用いたカーチェイスに挑戦している。 ローラースケート大会に出場していたジャッキー演じる新米刑事は、近くで発生したひったくり事件の犯人を追跡。ひったくり犯が自動車で逃走すると、彼は走行する自動車に掴まりながら距離を詰めていく。もちろん、ジャッキーはスタントなしで走行する自動車に生身で掴まって併走している。スピードを上げて次から次へと走る自動車に飛びついていくなか、チェイスのクライマックスには走行中のトラックの下をローラースケートでくぐり抜けるという、転倒すれば大事故につながるような危険度が超高いアクションも披露。その後の作品でもジャッキーは様々な乗り物を駆使したチェイスアクションにチャレンジしていくが、その原点となる記念すべき1作だと言えるだろう。 ちなみに『五福星』は、当時の香港を代表するサモ・ハンとジャッキー、ユン・ピョウの3人が本格的に共演する最初の作品でもあり、そこから『プロジェクトA』や『スパルタンX』(84)などの名作につながっていく。 ■『サンダーアーム 龍兄虎弟』/ジャッキー初のスカイダイビングアクション 『ポリス・ストーリー 香港国際警察』(85)でジャッキーは刑事を熱演し、二階建てバスに傘でぶら下がる追跡劇、ショッピングモールでの超絶アクションを披露することで、『プロジェクトA』と並ぶ代表作を作り上げた。名作アクションを世に送りだしたジャッキーは、新時代を代表するアクションスターとしての地位を揺るぎないものとしたのだった。その次なる挑戦として選んだのは、インディ・ジョーンズのように古代の遺跡を巡り、お宝を手に入れるトレジャーハンター役。“アジアの鷹”と呼ばれる冒険家を主人公とする『サンダーアーム 龍兄虎弟』(86)もまたジャッキーの代表作となり、シリーズ化されていく。 シリーズ第1弾となる本作では、アーマー・オブ・ゴット=神々の鎧と呼ばれるお宝をめぐって、邪教集団と戦いを繰り広げる。クライマックスにおける邪教集団のアジトで立ちはだかるアマゾネス4人衆との戦いのあと、切り札として用意したダイナマイトが爆発。崩れ落ちるアジトから脱出を試みるが、飛び出した先は断崖絶壁。その先に仲間たちが乗る気球を発見し、その気球に飛び移るべくジャッキーが大空を舞う!というラストシーンは、ジャッキー自身が実際にスカイダイビングを行い、本当に飛行している気球に飛び移る形で撮影が行われた。 万が一に備えて、パラシュートを装備してのスカイダイビングアクションだが、気球までは距離があり、小さな目標となる気球に上手く飛び移るのは至難の業。しかし、ジャッキーは見事このミッションを成功させ、ラストシーンでは気球に張られたロープに身体を結んで、ゴンドラ部に降りるジャッキーの姿が映しだされる。合成やカット割りを使っても問題ないシーンであるが、実際に飛び移ることでしか生まれない緊張感が画面に映しだされ、“本物”のアクションだからこそのカタルシスをそこに感じることができる。 ちなみに本作は、ジャッキーが壁の上から樹木に飛び移るシーンで頭蓋骨を骨折する大ケガを負い、生死を心配された作品でもある。エンドテロップではその事故映像もNGシーンとしてしっかり収録されており、いつも危険なアクションに挑んでいることを再確認することができる。 ■『ポリス・ストーリー3』/命綱なしのヘリコプターアクション 『プロジェクトA2 史上最大の標的』(87)、『ポリス・ストーリー2 九龍の眼』(88)、“アジアの鷹”シリーズ第2弾『プロジェクト・イーグル』(91)などシリーズものの大作を経るなかで、ジャッキーのアクションスタントもより過激化していく。そのなかでも一つの頂点と言えるのが、「ポリス・ストーリー」シリーズの3作目となる『ポリス・ストーリー3』(92)だ。 東南アジアの麻薬シンジケートを牛耳るマフィアの大物、チャイバ(ケン・ツァン)を逮捕するために、香港警察のチェン・カクー(ジャッキー)と中国人民武装警察部隊の女性捜査官ヤン(ミッシェル・ヨー)がコンビを組んで活躍。中国本土やマレーシアでロケ撮影を行い、香港に留まらない国際的な物語が展開される。 物語終盤になると、チャイバの妻をめぐってマフィアとチェンたちによる追跡劇が白熱。チャイバたちがヘリコプターを使って妻を救出し、その場を去ろうとするが、機体からぶら下がった縄ばしごにチェンが飛びつく。ここでのアクションは高所ながら命綱なし。さらに、ヘリコプターからぶら下がった状態で振り落とされそうになるなど、観ているこちら側がヒヤヒヤしてしまうレベルだ。 ちなみに、ヘリコプターが列車の上に不時着したあとの、列車にバイクで飛び移る危険なアクションは、ジャッキー同様にミッシェル・ヨー自身がスタントなしで挑戦している。ジャッキーのアクションだけでなく、当時すでにアクション女優としてブレイクしていたヨーのスタントも大きな見どころとなっている。 ■『酔拳2』/リアリティを重視した危険な火だるまアクション 90年代は現代が舞台のアクション映画を多く送りだしてきたジャッキーだが、大作シリーズがひと段落ついたタイミングで、ある意味の原点回帰であり、それでいて新たな方向のアクションに挑戦する作品となる『酔拳2』(92)を発表する。 ジャッキーを日本で有名にした作品といえば、『ドランクモンキー 酔拳』(78)が挙げられる。清朝末期に実在し、中国で英雄視される拳法家のウォン・フェイフォンをモデルに、彼の若かりし頃を想定した物語が描かれた。コメディ要素が多めのドラマや師匠に鍛えられながら成長するスポ根的シチュエーションも加えられるなど、それまでのカンフー映画の常識とは異なるテイストでヒットを呼んだ。 『酔拳2』でもジャッキーは同じくウォン・フェイフォンを演じているが、前作との関連性はない。むしろ、背景設定がより詳細に描かれ、イギリスの進出によって大きく変わろうとする香港を舞台に、イギリス領事館の悪事を阻止するために仲間たちと立ち上がるという、よりリアルな物語になっている。 アクション的な見せ場は、ジャッキースタントチームのエースであるロウ・ホイクォンが演じる足技使いとの製鉄所でのバトル。ホイクォンは元香港ムエタイのプロ選手として活躍した人物で、華麗で素早い足技が特徴の武術の達人。クライマックスのバトルでは、父親からの厳命で酔拳を封じられたウォンが、あちこちに熱された鉄や窯がある製鉄所で、その足技に追い詰められる。 危険な匂いがプンプンするなか、嫌な予感が的中するようにウォンは燃え盛る石炭の上に蹴り落とされ、服に炎が燃え移る衝撃的なシーンが映しだされる。この危険なシーンは、ジャッキー自身が防火服をまとって、顔をしっかり見せる形で撮影に臨んでいる。顔を覆うものがない状態で炎に包まれる姿は、本人が演じるからこそのリアリティにあふれており、ドラマの緊張感を高め、さらにカタルシスとなる酔拳の封印を解く流れへとつながっている。 前作ではコメディ要素が強かった“酔拳”という拳法を、酔うことで痛覚が麻痺し、暴走に近い戦いぶりにすることで、ストーリー性も含めて前作とは異なるリアリティが重視されていることがわかる。また、ジャッキー自身もフィジカル面を重視したクンフーアクションを見せており、若き日に自身が多く演じた「拳法もの」のレベルを表現面で大きく刷新した作品であるとも言える。 ■『WHO AM I?』/危険度MAXの高層ビル斜面滑り降りアクション 『レッド・ブロンクス』(95)で2度目ハリウッド進出を果たし、『ラッシュアワー』(98)の大ヒットで世界に通用するアクション俳優として認められたジャッキーは、その後もハリウッドと香港、2つの拠点で映画製作を進めることに。ハリウッドでは潤沢な予算で規模の大きい作品に関わり、香港では予算こそ少ないものの、従来通り自身が監督や武術指導を務めるジャッキーらしいこだわりが盛り込まれた作品が作られていく。 そんななかで製作された『WHO AM I?』(98)は、90年代のジャッキー映画の集大成ともいえる1作となっている。南アフリカで作戦中の某国特殊部隊を乗せたヘリが遭難。1名を除いて命を失ってしまう。地元部族に助けられ、1人生き残った隊員は記憶を失っており、自身の素性を知るために旅立つ。しかし、彼が関わっていた作戦は、CIAが絡んだとある機密と関係があった。 ジャッキー演じる主人公が自身の名前を聞かれて、「WHO AM I? (俺は誰だ?)」と答えたことから“フー アム アイ”の通り名で呼ばれることになる記憶喪失の男。自分が巻き込まれた事件に絡む組織の陰謀を阻止すべく、そのアジトに乗り込んだフー アム アイは、機密ディスクを手に入れて逃走。追われるまま屋上へと向かい、そこで腕利きの追っ手を相手に2対1のバトルを繰り広げる。ビルの屋上から落ちるか、落ちないかのハラハラ感が続くバトルのあと、追い詰められたフー アム アイはビルのガラス窓の斜面を滑り降りていく。 45度の傾斜がついたビルの側面を21階分滑り降りるアクションは、勢いが出やすいために危険度が高く、ジャッキー自身もベストアクションスタントの一つに挙げている。このシーンもまた、本人が本当に滑り降りることで、ビルの縁に立った瞬間に映像の空気感を一変させている。観客にもその緊張感が伝わり、失敗しないという結果を知っていながらもリアルな危険さに思わず手に汗握ってしまうのだ。 ■『ライジング・ドラゴン』/全身ローラースーツを着用し、時速120kmで爆走! 2012年に製作され、ジャッキーが還暦を目前に控えていたことからも「本格アクション映画からの引退作」との触れ込みで公開された、“アジアの鷹”シリーズの第3弾『ライジング・ドラゴン』。中国から持ち出され、世界中に散らばってしまった十二支の動物の頭部ブロンズ像を集めるべく、“アジアの鷹”ことジャッキー演じるJCが仲間と共に行動する。 物語の冒頭、軍隊を動員するある施設から脱出するJCが使用するのは、両手足、胸、背中など全身31か所にローラーが取り付けられた特殊スーツ。JCは高台に作られた施設から飛びだし、峠道を軍の車輌に追われながら下っていく。冒頭で紹介したローラースケートでのカーチェイスの進化版ともいえるこのアクションでも、ジャッキー自らがスーツを着用して最高時速120kmで下り坂を滑り降りていく。腹ばい状態でトラックの下をくぐり、斜めに切り立った壁面を疾走。まだまだアクション俳優として健在であることをその身を以って体現してくれた。 『ライジング・ドラゴン』の撮影前には、アクションを封印した『新宿インシデント』(09)や『ベスト・キッド』(10)、辛亥革命を描いた歴史もの『1911』(11)などに出演。この時期のジャッキーは、「アクションしかできない俳優」から脱却し、「アクションも演技もできる俳優」になるべく奮闘していた。そんななかで、「本格アクション映画からの引退作」という触れ込みが「まだまだアクションもやれる」という証明につながったとも言えるだろう。 本作のクライマックスではスカイダイビングのシーンが登場するが、強風を発生させるスカイダイビング体験装置を使用して空中でのお宝争奪戦を表現。さらに、着地時にはエアクッション付きのスーツで火山の斜面を転がり落ちるなど、後半でも危険なアクションスタントを見せつけてくれる。ジャッキーの気概を十分に味わうことができる1本だ。 アクションスタントマンに対する敬意が込められた作品でもある『ライド・オン』。本作と合わせてこれらの作品を改めて観直せば、ジャッキーのスタントへの深いこだわりをより感じ、込められたメッセージも強く受け止めることができるはずだ。 文/石井誠