もうひとつのジョーカーの物語として楽しむべき『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、ホアキン・フェニックス&トッド・フィリップスのタッグが描く『ジョーカー』の続編、磯村勇斗を主演に迎えた内山拓也監督の商業長編デビュー作、マイケル・ケイン引退作となるヒューマンドラマの、主演の演技が光る3本。 【写真を見る】1人ではなくなったジョーカーを待つものとは?(『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』) ■2人の心情を歌で表現するアプローチも面白い…『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(公開中) 2019年に大ヒットした『ジョーカー』のその後の物語。アーカム病院で看守たちの暴力にさらされる日々を送っていたアーサー(ホアキン・フェニックス)は、別の棟に入院していたリー(レディ・ガガ)と運命的な出会いを遂げる。前作をさらに推し進めた今作は、ジョーカーが生みだした巨大なムーブメントにアーサーが飲み込まれてしまう物語。リーと恋に落ちたアーサーがこれまでにない一面を見せるほか、2人の心情を歌で表現するアプローチも面白い。 前作ではマーティン・スコセッシの『タクシー・ドライバー』(76)との類似性が指摘されたが、スコセッシがその次に撮ったのが音楽満載のほろ苦いラブストーリー『ニューヨーク・ニューヨーク』(77)だった。さらにスコセッシは当時「音楽を多用したがミュージカルではない」と語っていたが、本作についてトッド・フィリップスも同じ発言をしている。同じニューヨーク生まれの大先輩をかなり意識してるのか?ストーリー展開や表現を前作と意識的に変えた本作は、もうひとつのジョーカーの物語として楽しむべき作品といえる。(映画ライター・神武団四郎) ■超リアルでビターな青春ムービー…『若き見知らぬ者たち』(公開中) 前作の『佐々木、イン、マイマイン』(20)が若者たちの共感を呼び、世界的に注目を集めた俊英、内山拓也監督が、日本、フランス、韓国、香港の合作で自らのオリジナル脚本を映画化した本格的な商業長編デビュー作『若き見知らぬ者たち』。内山監督が知人の身に起きた実際の事件にインスパイアされて産み落とした本作は、夢も希望も持てない閉塞した現代に抗いながら、必死に生きる青年の姿をしっかり映像に焼きつけた超リアルでビターな青春ムービーだ。 難病を患う母親、麻美(霧島れいか)の介護をしながら、亡き父、亮介(豊原功補)が残した莫大な借金を返済するため、昼は工事現場、夜は両親が営んでいた場末のカラオケバーで働くヤングケアラーの彩人(磯村勇斗)。叶わなかった自らの夢を総合格闘技のタイトルマッチに挑む弟、壮平(福山翔大)に託した彼は、恋人の日向(岸井ゆきの)との小さな幸せだけはつかみたいと考えていたが…。誰にも頼ることのできない親の介護や貧困といった息が詰まるような現実と、何の前触れもなく突然襲ってくる理不尽な暴力。誰の身にも起こり得る、私たちの人生とも地続きのそれらのシーンが生々しく連続するが、それとは裏腹に、本作の大きなメッセージを確実に伝えることから考えられた映画表現は大胆にして鮮烈! それは例えば、自宅と仕事場を自転車で行き来するだけの代わり映えのしない日々を送る彩人の狂おしい内面を、衝撃の映像で視覚化したタイトル前のシーン。あるいは、淀んだ現在と父親にボクシングを教えてもらっていた眩いばかりの子ども時代をワンカットでシームレスのように見せるシークエンス。なかでも最も驚かされるのは、映画の中盤あたりで重要な人物が突如として姿を消してしまうという作劇だが、そこには映画の可能性と映画を観る人たちの想像力を信じる内山監督の思いが見え隠れする。恋人や兄弟、親友たち…彼らを通して、不在になっても映画の中心で生き続けるその人物。映画を観終わってもなお、そこから立ち上がる濃密な“生”を強く噛み締めることになるのだ。(映画ライター・イソガイマサト) ■本題は旅路の先に待ち受ける…『2度目のはなればなれ』(公開中) “ノルマンディ上陸作戦70周年記念式典“に出席するため、89歳の退役軍人が老人ホームを抜け出し、一人でフランスのノルマンディに向かう。ところがSNSで行方不明と投稿されたことで、世界的なニュースになり…。その実話を、『理想の結婚』(99)のオリバー・パーカーが映画化。まず注目せずにいられないのは、イギリスの名優マイケル・ケインの引退作である、ということ。ここまで年を重ねても相変わらず英国紳士らしいお茶目な魅力を振りまきつつ、彼の地で見せる苦悩などの様々な表情、そのすべてを脳裏に刻みたくなる。対して長年連れ添った妻を演じるのは、グレンダ・ジャクソン。ケインと同様2度オスカー像を手にした名優で、本作が遺作に。 物語は、ノルマンディへの旅路と、妻と出会った頃の若かりし日々が編みこまれるように紡がれる。老人ホームでウィットに富んだ会話を交わす2人に思わず笑みがこぼれ、“夫婦が離れるのが、たったの2度目!?”という仲睦まじさに憧れを抱かずにいられないが、本題は旅路の先に待ち受ける。鮮烈に脳裏に蘇る戦地での記憶、消せないトラウマの深さと残酷さが、観る者をもハッと突き刺す。それは敵方の退役軍人も同じ。互いの傷の深さを、身をもって知る、彼らが言葉を交わす場面は、思わず熱くなる。夫婦愛を描くと同時に、声高にならず、だが強い想いが込められた反戦映画である。(映画ライター・折田千鶴子) 映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。 構成/サンクレイオ翼