『西園寺さんは家事をしない』“西園寺さんらしい”新たな出発へ “偽家族”が掴んだ答え
いかにも“西園寺さんらしい”新たな出発が描かれた『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)最終話。 【写真】空港の出発口に立つ楠見(松村北斗)、ルカ(倉田瑛茉)、西園寺さん(松本若菜) ルカ(倉田瑛茉)がカズト横井(津田健次郎)を伴って起こした家出騒動は西園寺一妃(松本若菜)に思わぬ人物との再会をもたらす。やはり楠見俊直(松村北斗/SixTONES)とルカ親子の元にやってきた家事代行業者の川口さん(高畑淳子)は西園寺さんの母親だった。 今の今まで自分は捨てられたと思っていた西園寺さんは、過去のある一点で傷つき立ち止まり蓋をしていた自分の痛みに向き合い、それを母親にぶつける。「家族なんだから想いを伝えるべきだった」と泣いて謝る母親の姿に、西園寺さんもまさに今ルカに何も言わずして“偽家族”を終わらせようとしている自分自身を省みた部分があったのではないだろうか。ルカは大人たちが嘘をついていることをしっかり見抜いていた。 母親から西園寺さんに何気なく問いかけられた「やりたいことをする西園寺は嘘で、誰かを傷つける場合には我慢するってこと?」によって、西園寺さんの中で「“誰かのため”って言葉のせいにして本当は向き合わないといけない気持ちを隠している」可能性に行き着く。 楠見とルカと変わらず一緒にいられて、でもルカが「む~っ」とならない“ウルトラC”な方法を見つけようと、あの手この手で試行錯誤を繰り返すさまは頼もしい。“偽大奥”に“偽大家族特番”、さらにはもはや一度“家族”を解体してみて取り組む“偽修学旅行”に“偽リゾートバイト”、“偽日本代表”と一体感が生まれ絆が試される共同体の形を一通りなぞってみる。 そこで西園寺さんたちが気付いたことは、その関係性が規定する枠内に抑え込まれるのが苦痛で“偽家族”を取り入れたはずなのに、結局今度は自分たちがその“偽家族”という理想像に囚われてしまっていたということだった。皮肉なもので、一度名前を付けてしまうと、それが意味するところになぜか縛られてしまうのが我々の性ではある。しかし「一部の地域のその時代にだけ当てはまる小さな当然」に自分たちを無理矢理近づける必要などなく、行き詰まった時には「心がワクワクする方へバババ」っと進めばいい。 いつだって全力で恐れずにトライアンドエラーをしてみる西園寺さんと楠見のような大人を近くで見られて、ルカも心底安心したのではないだろうか。大人だって間違えるし悩む。正解なんて持ち合わせていない。すべての過程を包み隠さず見せ、ルカのどんな小さな声も聞き漏らすまいと耳を傾け、一緒に悩みながら最適解を見つけようとしてくれる過程こそが、一言では規定できない絆や信頼にそのまま繋がったのだろう。 「一緒にいれないからママのこと好きじゃない?」と不安げだったルカが、庭先で談笑する西園寺さんと楠見の隣に、確かに亡き母・瑠衣(松井愛莉)の姿を見た。ルカがニコッと笑って駆け出す姿に、横井の言葉通り、彼らが過ごした数カ月間の一コマ一コマすべてが、その生き方そのものが彼らが掴んだ答えだったのだろうと心から思える。 川口さんが現在の夫と出会った時に、見上げた空の真っ青さと上も下もないだだっぴろさに慄きながらも、一歩を踏み出そうとする自分を押さえ込もうとする自身に心底ガッカリしながら、「こうやって私は私を空っぽにしてきたんだ」と気付いたと涙ながらに打ち明けていた。 そんないつかの青空が西園寺さんの目の前にも広がった時に、彼女はただただ心がワクワクする方に進むことを迷いなく選べていた。名前なんて要らない「共に安心して食べて眠って暮らしたい」と思える好きな人たちと。 “出発口”に立つ3人ならば、それぞれが互いの“やりたい”を潰したり引っこ抜いてしまったりせずに、真っ青な空をどこまでも軽やかに飛んで行けるのだろう。その先の彼らにきっとまたどこかで会えるに違いないと思える。
佳香(かこ)