対「イスラム国」 米の地上部隊派遣の行方は? 上智大学教授・前嶋和弘
オバマ大統領は2月12日、過激組織「イスラム国」に対する武力行使決議案を連邦議会に求め、その草案を発表しました。決議案は、イラク戦争のような長期で大規模な地上戦への戦闘部隊派遣は認めないとしながらも、限定的な地上作戦に含みを残す内容となっています。その一方で決議の有効期間は3年間と最初から区切っています。イスラム国に対する抜本的な掃討作戦は必要だが、再び地上軍を投入して泥沼化となることは避けたいという何ともいえないオバマ政権の葛藤がこの決議案からもうかがわれます。今回の決議案の背景や今後の展開はどんなものになるのか展望してみます。 【写真】「イスラム国」はなぜ国家ではないのか?
■決議案の背景
「イスラム国」はイラクとシリアの3分の1近くを実効支配し、その勢いはなかなか失速する気配がありません。「イスラム国」に対しては、米軍は軍事作戦を地上のイラク軍やクルド人部隊支援を目的とした空爆に限定してきましたが、それだけでは「イスラム国」壊滅になかなかつながりません。また、日本人を含む誘拐した人々の殺害など、「イスラム国」の挑発はますます過激になっています。 アメリカ国内では再三、地上軍の本格的な投入の必要性が指摘されてきました。「イスラム国」をめぐる情勢が大きくは改善しないため、オバマ大統領に対する世論も厳しくなっています。今回の決議案を公表することは、世論の反発のガス抜きという意味もあります。 決議案の具体的な中身ですが、「イスラム国」の指導者に対する特殊部隊による攻撃や、アメリカ国民や有志連合要員の救出作戦、空爆精度を高めるための地上要員の配置などが盛り込まれており、米軍の積極的な関与に含みを持たせています。
■慎重な内容
ただ、このような特定のケースに限定しているため、決議案は地上軍の本格派遣を実際には微妙に制限しているとも読めます。さらに、3年間という期限を設けたのもオバマ政権の慎重な姿勢を反映したものです。 アフガニスタン、イラクからの撤退を進めてきたオバマ政権にとって、地上軍投入は自らの政権のアイデンティティそのものを揺るがすものです。それでも、長期にわたる大規模な地上戦力は投入しないことを明確にした攻撃決議というのは、やはり中途半端であるという印象は免れません。