「普通のおばさんが隊長、特別なことではない」女性初の南極地域観測隊隊長がみせる“自身の姿”
原田さんが切り開いてきた南極への道。25%に増えたといえど、まだまだ女性は少ない。彼女が教壇に立つ東京大学でもそう。女子学生は約2割で、これは受験者数の割合に相当する。
普通のおばさんが南極で隊長をしている
すなわち受験者自体を増やす必要があるが、女性にとって東大出身の肩書は時にマイナスに働くのも事実。なぜ女性の社会進出が進まないのだろう。女性リーダーとして、見解を聞いた。 「女性はこうあるべし、男性はこう、という性別的な役割の考え方がまだまだ浸透しているのを感じます。昭和の考え方は今も再生産され続けている。従来型の価値観を払拭しなければいけない。それには時間がかかるけど……」 そのためにも自身の姿を見せる、と覚悟を口にする。 「いろいろな場で活躍している女性の具体的な姿を見せるしかない。普通のおばさんが南極で隊長をしているんだ、これは特別なことではないという姿を見せることで、男性の道と思っていた場所に女性が目を向けるかもしれない」 現在は12月の出発に向け準備が続く。一度南極へ行けば次の迎えが来るまで帰国は叶わず、それだけに万全の体制が求められる。 「まず3月にみんなで冬期訓練をしました。例えばクレバスに落ちたと想定し、そこからレスキューをする訓練、負傷者をどう運ぶかという訓練などです。雪山の中でみんなでテント泊をする。身体的にタフな訓練をすると、チームワークがガシッと強くなりますね」 続いて座学。安全教育、救急救命、南極の暮らしと、学ぶべきテーマは多い。夏に入ると多様な物資の調達や専門訓練も始まった。担当分野によっては企業へ研修に出向くこともある。 渡航直前になると時間にゆとりができ、大半が長い観測に向け家族と共に過ごすという。原田さんは既婚の身。南極行きに夫君からどんな言葉が? 「結婚してから南極に行くのは2回目ですし、その間も研究航海でたびたび長期不在にしていたので夫も慣れていて(笑)。まぁ頑張ってきなさい、と言ってくれています」 南極行きに備え、毎日8kmのジョギングが原田さんの日課。さらに隊長として学んでいることがあるという。 「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の勉強をしています。外との接触が一切なく暮らしていると厳しい状況に追い込まれるケースもあって、コミュニケーション上のトラブルが起きやすい。日本にいると息抜きはいくらでもあるけれど、通常以上に心の平安を保つのは難しい現場なんですよね。メンタルは一番大切だと思います」 女性の身で厳しい極限の地へ自ら飛び込んでいく。原田さんの南極への旅はいつまで続くのだろう。 「年齢的にも今回が最後かなとは思うんですけど。南極観測隊って、人との付き合いが濃密なんです。別れの日なんか、大の大人がみんなおいおい泣くくらい(笑)。簡単には行けない場所で、時間を共有する。それはやっぱり特別なものがあって……。これで最後と言いつつ、帰ってきたら変わっていそう。きっと“また南極に行きたい”って、言っているのでしょうね(笑)」 取材・文/小野寺悦子