大分の挑戦“夏へ延長” 八回、意地の3点もぎ取る 最後まで大きな声援 /大分
<センバツ甲子園> ベスト8の壁は厚かった。センバツ初出場の大分は30日、2回戦で明石商(兵庫)と対戦。雨の中、最後まで懸命にプレーしたが、強打の明石商のペースを崩せず、春の挑戦は終わった。しかし、春夏通じて甲子園初勝利をつかむなど、大きな経験を積んだ選手たち。堂々とした戦いぶりに、応援スタンドからは最後まで大きな声援と拍手が送られた。【田畠広景、宗岡敬介】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 試合はアクシデントで始まった。「危ない!」。明石商の先頭打者が打った球がピッチャーマウンドの後方に高く上がると、上を見上げながら打球を追いかけていた三塁手・飯塚和茂選手(3年)と二塁手・足立駿主将(同)が交錯、衝突。足立主将が右膝を負傷した。その後、スクイズを決められ、看板である「堅守」の乱れから先制点を献上してしまった。 「チームに迷惑をかけてしまった。取り返さなくては」。初回の初打席に入った足立主将は痛みをこらえながら振り抜き、反撃ののろしを上げる右前打。この主将のがんばりに、チームは盛り上がった。「みんなで続こう!」。1死三塁と好機を作ると、小手川巧選手(同)が適時二塁打を放ち、すぐに同点に追いついた。快打に姉愛実さん(21)も「よく粘って打ってくれた」と笑顔だ。 だが、投打に勝る明石商が徐々に本領を発揮。苦しい展開になる。先発の武藤俊介投手(3年)は二回にも先頭打者に本塁打を浴びるなどし4失点。三回表からはエース長尾凌我投手(同)が登板したが、初戦の完投の疲れが抜け切れておらず、「思っていたよりボールのキレや伸びがなかった」。四回に本塁打を浴びるなどし、八回にマウンドを譲った。 しかし、これでは終われない。八回裏、足立主将の四球をきっかけに無死満塁と攻め立て、相手投手の暴投で1点をもぎ取った。なおも1死二、三塁から、「甲子園でヒットを打って調子が出てきた」という飯塚選手が右前適時打を放ち1点を追加するなど、この回に計3点を奪って意地を見せた。 最終回。声を枯らす応援が続く中、小手川選手のライナーがショートのグラブに吸い込まれ、ゲームセット。マネジャーの後藤聖華さん(同)は「夏の甲子園に帰ってきてプレーする姿を必ず見ます」。悔しさを晴らすため、大分の挑戦は終わらない。 ◇雨にも負けず励ましの音色 ○…大分の三塁側アルプススタンドでは、吹奏楽部約50人が演奏し、選手たちを後押しした。野球部員から要望を聞くなどしてセンバツのために25曲を用意。このうち15曲ほどは動画を見て譜面から起こした。得点時にはサッカーJ1・大分トリニータの応援歌を取り入れ、地元色も打ち出す。試合途中に雨に見舞われても、楽器をビニールで保護して懸命に演奏。奥田夏季部長(3年)は「苦しんでいる場面でも、選手が励まされるような応援をしたい」と最後まで音色を響かせた。 ■青春譜 ◇きっと夏もお前と来る 長尾凌我投手(3年)、江川侑斗捕手(3年) 二回表。ベンチにいた長尾投手が伝令にマウンドに向かったときだ。「準備しとけよ」。江川捕手からこう言われ、「おう、準備しておくぞ」。長尾投手の登板は、その直後の三回表だった。初戦の疲れが残っていたが、「ミットの構えたところに投げられた」。明石商の打者をテンポ良く抑え、3者凡退。「手元で動くボールが効果的だった」(江川捕手)という。だが、その後は明石商打線につかまり、小学5年生から続く「幼なじみバッテリー」の春の挑戦は終わった。 「甲子園のグラウンドに立とうな」--。2人は小2で同じ野球チームに所属。小5からバッテリーコンビを組んできた。「小さい頃から『こいつには負けられない』と意識してきた」(長尾選手)、「他の選手より抜けた実力があったので、ずっと意識してきた」(江川捕手)。互いを刺激し合いながら練習を積んだ。 一緒に大分中、大分高に進学。遠征時には同部屋になることも多い。長尾投手が「気持ち悪いくらい一番近くにいる。自分のことが完璧に分かっている」と信頼を寄せれば、江川捕手も「互いに相手の考えが分かる。サイン交換もスムーズ。相手打者との対戦だけに力を割ける」と相性の良さを実感する。 夢の舞台に初めて立った初戦。相手の松山聖陵(愛媛)の試合動画を見て研究を重ねた効果もあって、毎回のように走者を背負うも、最少失点に切り抜ける「100点」の出来だった。しかし、2回戦の明石打線には通用しなかった。5回を6被安打4失点。2人は「レベルアップが必要」と声をそろえ、夏に戻ってくるため、土は持って帰らなかった。【田畠広景】