楽屋に警察が入ってきて…「全見せ上等」の伝説のストリッパーを悩ませた「公然わいせつ罪」と「衝撃の逮捕劇」
「牢屋に入るんや」
そんなやりとりの後、一条は初めて手錠をかけられた。最高気温が33度にもなる暑い夏の日だった。 「そのときは女の子や劇場の人たち10人ぐらい捕まったかな。最初やからびっくりしてね。その後、何度も捕まっているうちに平気になったけど」 聴取された一条は、不安を隠せなかった。 「あたしどうなるんですか。牢屋に入りますの」 取調官は「そうや」と答えた。公然わいせつの初犯で実刑ということは、まずない。一条に反省を促そうとした警察の「お灸」だった。結局、一条は罰金刑(1万円)を受け、劇場側がそれを支払った。 取り調べで、「陰部を見せるよう誰から指示されたのか」と聞かれた一条は素直に、「劇場の社長さん」と答えた。 そのため彼女は釈放後、劇場主からこう言われた。 「あんたみたいにペラペラしゃべったら、今度からうちで使えないよ」 「そんなこと言われたって、あたしもつらいわ。警察から正直に言わんと、ここから出さんぞと言われるんやから」 「とにかく、次からは劇場から命令されたとは絶対に言わんといてくれ」 「じゃあ、どう言うたらええんですか」 「『お客さんを喜ばせるためです』でええやろ。『パンティ脱いだら、拍手が大きくなりますから』とでも言うといてくれ」 完全に逮捕を前提とした話になっている。
お客さんを喜ばせたい
そして、一条は取り調べに、「お客さんを楽しませるため」と繰り返すようになる。その言葉はまんざら嘘ではなかった。インタビューにこう語っている。 「あたしはサービスがいいほうやったみたい。自分ではわからんけど、小さいころから貧乏で、義理堅く生きようと思っていたからかな。お客が『一条や、一条や』っていうのを聞いているとうれしい。お客さんをがっかりさせとうないのよ」 最初の逮捕から半月後の7月30日、一条は岐阜の真砂座で逮捕され、再び罰金刑(2万円)を受けた。 その後、一条と同じ事務所に所属したこともある性転換ダンサー、ジュリアン・ジュリーはこう言っている。 「次第に踊り子さんは、一条の姉さんと一緒に舞台に上がるのを嫌がるようになりました。姉さんが警察に目を付けられているのがわかってきたからです。同じように踊っていても、姉さんと一緒に出ると逮捕されるんですから」 しかし一条は一緒に逮捕された踊り子を気の毒に思い、所属事務所からもらった特別手当をそうしたダンサーと分ける気遣いも見せていた。
小倉 孝保(ノンフィクション作家)