宮益坂のスナックとゆういちさんと西部劇『男の出発』
■悪役面のバイブレーヤーたちがいい
旅の終盤、一行は信仰の旅を続ける人たちと出会う。彼らがキャンプを張る土地の持ち主は荒くれで、出て行かなければ全員を殺すと脅している。それも神の意思ですと彼らは出て行かない。この持ち主とは、カウボーイたちも以前にいざこざがあった。でも金にならない争いはしない。武器など持たない信仰の一行を見捨てて、カウボーイたちは目的地に行こうとする。 書けるのはここまで。ベンを演じるのはゲーリー・グライムズ。カウボーイたちを演じるビリー・グリーン・ブッシュにルーク・アスキュー、ボー・ホプキンスやジェフリー・ルイスなど悪役面のバイブレーヤーたちがみんないい。アメリカ公開は1972年。まさしくアメリカン・ニューシネマの香りがする西部劇だけど、『明日に向かって撃て!』よりはずっと秀作だ。 テレビの仕事を始めてからも、しばらくはJumpに客として通っていた。入院していたゆういちさんが逝去したとたっちゃんに聞いたのは10年ほど前だ。数年前に近くを通りかかったけれど、店は別の看板に代わっていた。 『男の出発』(1972年) 監督/ディック・リチャーズ 出演/ゲーリー・グライムズ、ビリー・グリーン・ブッシュ、ルーク・アスキュー <本誌2024年5月28日号掲載>
森達也(映画監督、作家)