『メアリと魔女の花』に受け継がれるジブリの系譜 米林宏昌監督の集大成となる一作に
『メアリと魔女の花』が浮き彫りにする人間の愚かさ
そして、誰もがストーリーから浮かび上がってくるひとつのメッセージ、制御できない力をそれでも押さえ込もうとして抑えられず、暴走させてしまう人間の愚かさを感じ取るだろう。今のこの世界、あるいはこの国で起こっていることへの思いも浮かんでくる。 世界に対する好奇心があって、自分という存在に対する評価に不足を感じていて、背伸びをしたいと思っていて、そんな行き過ぎた欲望が何を生むかに気付いていない若い人たちなら、観ていろいろと感じ取れる作品だ。 主人公のメアリ役を演じているのは杉咲花で、愛らしさと活発さが混じった声を聴かせてくれる。エンドア大学のマンブルチューク校長は天海祐希。『女王の教室』(日本テレビ系)の阿久津真矢にも重なる強引さでグイグイと迫ってくる。箒小屋の管理人のフラナガンは佐藤二朗で、ドクター・デイは小日向文世。癖のある俳優たちの特徴を活かした声を聞けるだろう。そして、ピーター役の神木隆之介。少年なら神木といったハマり具合が『ゴジラ-1.0』の敷島を観た後では懐かしい。 米林宏昌監督は、ジブリで数々の作品に原画などで携わり、宮﨑駿監督からも高い評価を受けたアニメーターだった。『千と千尋の神隠し』では、千尋のお父さんが食事をするシーンを描き、『崖の上のポニョ』(2008年)ではポニョが波の上を駆けるシーンを担当。最新作『君たちはどう生きるか』にも参加して、墓所でキリコがペリカンを相手にするシーンなどを担当している。 監督としては、床下や庭の草の下が舞台の『借りぐらしのアリエッティ』でも、北海道の田舎が舞台の『思い出のマーニー』でも、アクションというよりは登場人物たちの心情がにじむ演技や表情で、観客を物語に引き込んできた。 『メアリと魔女の花』では、冒頭に激しい飛行アクションを見せ、悪い魔女を相手にした激しい戦いも盛り込んで、『思い出のマーニー』と同じ監督とは思えないスペクタクルな映画を作り上げた。もちろん、田舎の生活に退屈しているメアリの豊かな表情も楽しめる。その意味で、米林監督の集大成とも言える作品だ。 米林監督は『メアリと魔女の花』の後、『屋根裏のラジャー』で監督を務める百瀬義行の『透明人間』(2018年)と共に上映されたポノック短編劇場『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』に寄せた『カニーニとカニーノ』(2018年)を監督して、擬人化されたカニの子供たちが、水流にさらわれた父親のカニを探して冒険するストーリーをスリリングに描いてみせた。ここ最近はアニメーターとしての活動が多いが、監督として次に何を作るのかにも期待したい。
タニグチリウイチ