北朝鮮が戦車部隊の実戦演習で見せた、涙ぐましい背伸びの実態
朝鮮中央通信(2024年3月14日)によれば、「北朝鮮は、朝鮮軍戦車兵大連合部隊の実戦能力や異なる戦術的任務に応じた戦闘行動の検閲を行った」という。 金正恩自らが戦車を操縦したって本当か?この写真は、顔だけを戦車の操縦席の上に合成したものと考えるのが妥当 それは、戦車部隊間の対抗競技でもあった。 これを視察した金正恩総書記は「今日の戦車兵たちの準備練度を一番満足に思う。戦争準備については安心することができる」と大満足の意を表した。 また、金正恩総書記は検閲の後、自ら新型主力戦車を運転しながら、戦車兵達の士気を高揚させたという。 北朝鮮が公表する演習の写真を見た全体の印象は、金正恩に見せるための展示訓練であり、日米韓国にも見せたかったのだろうというものだ。 これらが実践的というのであれば、軍事専門家から見ると疑問が多くあり、笑える部分も多々あった。 最近の北朝鮮軍通常戦力による演習を見ると、大規模や実践的という表現で演習を誇張することが多い。 今回の演習画像について、朝鮮中央通信の説明記事や写真を見ると、大連合部隊、実戦的訓練、新型主力戦車、金正恩氏による戦車の操縦などは、本当なのかと疑問が生じてしまう。 北朝鮮が主張することを北朝鮮公開の写真の実態を分析し、 (1)登場した2種類の新型戦車戦力の実態、 (2)たったの14両で戦車兵大連合なのか、 (3)新型戦車は張りぼてではなく戦える、 (4)実践的な訓練というが実は笑える、 (5)新型戦車戦力を誇張して見せる理由 の順で考察する。
■ 1.登場した2種類の新型戦車戦力の実態 北朝鮮が公開した戦車は、2種類だった。 一つは、2020年10月の軍事パレードに初めて出現した米国の「M1エイブラムス」に酷似の戦車である。 パレードに参加したのは9両だったが、今回訓練に参加したのは7両(2両は整備中か? )だ。 性能については、米欧の戦車に比べてどうなのか今のところ不明だ。 写真1 北朝鮮保有のM1酷似の戦車 もう一つは、ロシア製の「T-72戦車(大転輪が6軸)」と同じものだ。 北朝鮮が保有している戦車の種類と数量は、最新のミリタリーバランス2023によると、「T-33」「T-54/55(大転輪が5軸)」「T-62(大転輪が5軸)」型戦車が約3500両であった。 T-72型戦車は、これまでの記録にもパレードにも登場したことがなく、新たに取得したものだと考えられる。 北朝鮮としては、2番目に新しいものである。どこの国から取得したかは謎だ。 写真2 北朝鮮保有のT-72戦車 この型の戦車は、ロシア軍が使用する戦車(T-72・80・90)の中では、最も旧型のもので、ロシアは大量に保有していたが、ウクライナ戦争では、米欧の対戦車兵器にボコボコにやられている。 M1エイブラムスに酷似の戦車もT-72戦車も、演習に初めて登場したことから、これらの戦車は模造品ではなく実際に射撃できる本物のようだ。 M1酷似の戦車が本物で、T-72を導入したことを日米韓に見せたかったのが、この演習を公表した金正恩氏の最大の狙いだったのだろう。