『続編』に依存しないディズニー・スタジオの戦略
興行収入250億円を超え、『千と千尋の神隠し』、『タイタニック』に次ぎ、日本歴代3位の大ヒットとなった『アナと雪の女王』を送り出したディズニー・スタジオ。同スタジオがこの冬、東京とサンフランシスコを融合した街を舞台にしたアニメーション映画『ベイマックス』で、再び日本市場の席巻を狙う。躍進を担うのは、ディズニー・アニメーション・スタジオを統括するアンドリュー・ミルスタイン社長。絶対的なブランド力を誇り、国民的、世界的アニメーションとなった『アナと雪の女王』の追い風を背に、ビジネスを加速させている中、ミルスタイン氏の戦略は意外にもビジネス重視ではなく、ピュアな“ものづくり”への思いだという。
単発作品の多いディズニー・アニメーション・スタジオ
ディズニーには現在、2つのアニメーションスタジオが存在する。『アナと雪の女王』をはじめ、『シュガー・ラッシュ』、『塔の上のラプンツェル』などをヒットさせたディズニー・アニメーション・スタジオ。もう1つは、『モンスターズ・インク』シリーズ、『トイ・ストーリー』シリーズ、『ファインディング・ニモ』などを送り出したピクサー・スタジオ。ピクサーは2015年以降、『トイ・ストーリー4(原題)』や『ファインディング・ドリー』など、人気作品の続編を着々と準備している一方で、ディズニー・アニメーション・スタジオでは、対照的なほど単発作品が多い。 『アナと雪の女王』はファンの期待に応える形で続編を製作中だが、あくまで短編。一部報道では、長編としての続編の準備に入ったという話もあるが、正式な発表は今のところない。また、過去には『塔の上のラプンツェル』も短編として続編が製作されているが、長編は製作していない。
ビジネス重視ではなく「情熱」を重視
ビジネス的な観点で考えれば、250億円の興行収入を生み出した『アナと雪の女王』の続編を製作すれば、オリジナルに匹敵する大きな収益を得る可能性が高い。しかし、ミルスタイン氏の考え方は異なる。「ビジネス的な考え方だと、そうかもしれない。しかし、我々はクリエイターが情熱を持って製作したいものを製作している」と、収益重視の考え方を否定する。 さらに「1つの作品には構想から6年くらい時間をかけている。ヒットしたから続編、といっても、さらに6年くらい時間がかかってしまう。例えば、同じクリエイターが携われば、10年以上、同じ作品をやることになるし、クリエイターにとってやりたいことではなくなってしまうかもしれない」と、製作側のモチベーションにも配慮している。クリエイターが情熱を持って製作できる作品を信頼しているからこそ、ビジネス重視での戦略ではなく、ピュアなものづくりをマーケティングの立場からバックアップしている。 ミルスタイン氏が『続編』にこだわらない理由には、サプライズを提供し続けたいという思いもある。「オリジナル作品は、ストーリーが分からないので、サプライズを提供できるが、続編になると同じキャラクターが登場して、前作をある程度、踏襲することになる。それだとサプライズを提供するのは簡単ではなくなる」と説明する。