韓国は今や大統領のうそに驚かない国になってしまった【コラム】
尹錫悦大統領はうそにも「誠意がない」。すぐにばれて恥をかいたことがすでに何度もあるのに、繰り返されている。何の恥も申し訳なさも深刻さも感じ取れないからだ。尹大統領の任期はまだ半分も過ぎていない。残りの2年半、どれほど多くのうそを聞かなければならないのだろうか。 クォン・テホ|論説委員室長
2012年、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が最高検察庁中央捜査第1課長だった時代、彼は世界銀行主催の反腐敗会議に出席するために米国ワシントンを訪れたことがあった。現地では、ある日本料理店で夕食の際に隣の席の駐在員や特派員たちと一緒に食べたり、夜遅くまで1杯やったりもした。10年後、大統領候補となってから当時の駐在員や特派員たちに会ってその時の思い出話をすると、あの日初めて会った人を含めて、誰がどこに座っていたのか、その時どのような話をしたのかまで、すべて覚えていた。 与党「国民の力」のクォン・ソンドン議員(江陵(カンヌン))は「親尹錫悦派」とされる。クォン議員が尹大統領と親しくなったきっかけは小学校時代。尹大統領は小学生の時、長期休みになると母方の祖父母のいる江原道江陵に行き、そこでクォン議員と遊んだ。政界入り後、尹大統領はクォン議員との再会を喜びつつ、「4年生の時、一緒にあの路地で○○ごっこをして遊んだ」と述べ、その時にクォン議員がどのようなことを言い、どのような行動をしたのかまで語った。残念ながら、クォン議員は尹大統領の存在そのものを覚えていなかった。 尹大統領は記憶力が非常に良いというのは広く知られた話だ。周囲は「当時のことを、写真に撮ってあった(『フォトグラフィックメモリー』)かのように語る」という話をよくする。だからこそ、近ごろの「ミョン・テギュン-キム・ゴンヒ疑惑」の過程での「よく覚えていない」という尹大統領の発言は信じられない。 大統領による候補公認への介入は法的、政治的に問題だ。しかし、公認に対する大統領室の直接、間接的な介入または論議は、今にはじまったことではない。だが尹大統領の公認介入疑惑が以前と異なるのは、「政治ブローカー」の請願窓口として利用されたという疑惑があること、そしてうそをつき続けていることだ。国民の力の中でも「疑惑」そのものよりも、大統領室の非常識な「対処」の方が問題視されている。 「2021年7月にミョン氏と2度会った。(党内の予備選挙以降は)通話した事実はないと『記憶』している」(10月8日)、「(就任式前日の通話は)記憶にも残らない通話だった。ミョン氏がキム・ヨンソン候補の公認のことを言い続けているから喜ぶような話をしたに過ぎず、就任後はまったく連絡を取っていない」(11月1日) 「2度の対面」、「予備選挙以降は連絡していない」などは、すべて偽りであることが明らかになっている。「就任後は連絡を取っていない」というのもすでに、就任後の「2022年6月中旬」の尹大統領との通話内容を知人に伝えるミョン氏の通話音声が公開されている。 尹大統領はうそにも「誠意がない」。すぐにばれて恥をかいたことがすでに何度もあるのに、繰り返されている。何の恥も申し訳なさも深刻さも感じ取れないからだ。尹大統領は2019年7月の検察総長候補に対する人事聴聞会で、「(収賄容疑が持たれていた)ユン・ウジン元龍山(ヨンサン)税務署長に弁護士を紹介したことがあるか」と問われ、一日中「そんなことはしていない」と否定した。ところが、聴聞会当日に「ニュース打破(タパ)」が「最高検察庁中央捜査部の研究官を務めたイ・ナムソク弁護士に、ユン・ウジン署長に一度会ってみろと紹介したことがある」と語る尹錫悦候補本人の通話音声を公開し、うそがばれている。また「私の義母は他人に10ウォンたりとも被害を与えたことがない」、「私の妻は(ドイツモーターズに)2010年5月まで投資していたが、損ばかりして絶縁した」と語っていたが、すべて事実ではないことが明らかになっている。 非常識であるため、誰にも信じてもらえない回答も多い。「バイデン-飛ばせば」発言が代表的な例だ。また、手に「王」の字を書いて大統領予備選挙の討論会に出席していたことが後に明るみに出た際には、「同じマンションに住むおばあさんが応援すると言って手のひらに書いてくれた」と述べた。3、4、5回目の討論会に毎回「王」の字を書いて出席していた。討論会の度に大統領選の予備選候補の手のひらを握ることができたというのは、いったいどこのおばあさんなのか。この他にも直接・間接的に、就任式出席名簿は破棄したと述べたが後から翻したこと▽(殉職した海兵隊員の)C上等兵事件の際に国防部長官と通話していたこと▽キム・ゴンヒ女史のブランドバック受け取りの際に「返却しろと言ったのに、(行政官が)うっかりした」と述べたことなど、大統領室は毎度非常識な答弁を繰り返してきた。 「大統領に当選するために全国民に対して繰り返しうそをついているため、事案が重大だ。広く伝わる放送でうそを繰り返したため、有権者の選択に多大な影響を及ぼしたことは明らかだ。被告人の身分と政治的状況によって公職選挙法の適用基準を異にすれば、法の趣旨は損なわれる」。先の大統領選挙の際に、共に民主党のイ・ジェミョン候補が城南(ソンナム)都市開発公社の故キム・ムンギ開発第1処長のことを知らないとうそをついた(公職選挙法違反容疑)として、検察は懲役2年を求刑している。 だが大統領候補のうそよりも深刻なのは、大統領と大統領室のうそだ。そのことをあえて説明する必要はなさそうだ。尹大統領の任期はまだ半分も過ぎていない。残りの2年半、どれほど多くのうそを聞かなければならないのだろうか。 クォン・テホ|論説委員室長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )