勘九郎と七之助の魅力をたっぷりと!『明治座 十一月花形歌舞伎』
中村勘九郎と中村七之助が『明治座 花形歌舞伎』に帰ってくる! 2020年に舞台稽古まで終えながらもコロナ禍で中止となった本公演が、満を持しての上演だ。昼の部は、『菅原伝授手習鑑 車引』『一本刀土俵入』『藤娘』。夜の部は、『鎌倉三代記』『お染の七役』という、どれも見逃せないラインナップ。勘九郎と七之助のほか坂東彦三郎、坂東巳之助、中村米吉、中村橋之助ら、今や“花形”(若手)の枠にとどまらない人気・実力共に充分の面々が揃った。 公演自体は4年越し、勘九郎と七之助の明治座出演は実に8年ぶりという本公演について、9月27日、制作発表と取材会が行われた。 【全ての写真】『明治座 十一月花形歌舞伎』制作発表に出席した中村勘九郎と中村七之助 制作発表では、「(2020年は)幕が開くかどうか分からないという中で稽古を続けるのが苦しく、心のバランスを保つのが大変だった記憶があります。お客様に観ていただけなかったことはもちろん“芝居は不要不急”といわれた悔しさも含めて、今回その想いを舞台で返せるというのが嬉しいですね。昼の部、夜の部共に自信をもってお届けできる作品になっていますので、お客様にぜひ楽しんでいただければ」と熱く語る勘九郎。 七之助も「(中止となった3月から)8月まで舞台がないという、人生で初めての経験も味わいました。これは本当に職業を変えなくちゃいけないのではと本気で思ったほど」と率直な気持ちを吐露。「そこから一歩一歩進んできて、やっとこうして明治座に戻ってこられました。それを本当に嬉しく思っているところです」と改めて喜びをにじませた。 歌舞伎の上演については長い歴史をもつ明治座。2人は祖父(十七世中村勘三郎と七世中村芝翫)や、父(十八世中村勘三郎)との思い出もたくさんあると話す。 七之助は「祖父の芝翫が『恋女房染分手綱 重の井子別れ』で出演している時、私は(子役の)三吉役でした。父と一緒ではない公演は初めてだったので、祖父といろいろな話が出来たのが良い思い出です」と懐かしそうだ。一方の勘九郎は「『実盛物語』をさせていただいた時にちょうど次男の長三郎が生まれて。(明治座の近くにあり安産や子授けで有名な)水天宮さんにお参りできたのが、一番印象に残っていますね」と明治座との縁を振り返る。 それぞれに主演となる『一本刀土俵入』と『お染の七役』についても語ったふたり。 まず『一本刀土俵入』は、昭和期に大ヒットした『瞼の母』など、観客の涙を絞る人情物を多く生み出した作家・長谷川伸による新歌舞伎の名作。相撲の親方に見放され、一文無しになった駒形茂兵衛(勘九郎)が、取手の宿で通りすがりの酌婦・お蔦(七之助)に温かい施しを受ける。立派な横綱になることを誓って去るものの、10年後に現れた茂兵衛は渡世人になっていて……という物語。前半は無垢な力士、後半は凄みのある侠客と、ガラリと変わる茂兵衛の姿が見どころだ。 「茂兵衛は3度目になるのですが、祖父も父も演じたゆかりのあるお役。父にこと細かに習いましたが、私も父の茂兵衛はよく覚えていて、(後半の侠客の凄みに)共演の方が『あの目で睨まれると、覚えているはずのセリフも出てこない』と言っていたほど。私も年を重ねたので、そんな“匂い”を出せればいいなと思っています」と勘九郎は語る。 『お染の七役』は御家騒動に悲恋を絡ませながら、七之助が文字通り七役を早替りで見せる人気作だ。可憐なお染から“悪婆”(あくば/惚れた男のために悪事を働く中年女性の役どころ)のお六まで演じ分けるほか、七通りの美しさが堪能できるとあって、七之助の代表作になりつつある。中にはわずか数秒の早替りもあり、「舞台裏は(F1の)“ピットイン”ですね」と笑う七之助。「お役のことは、初役の時に玉三郎のおじさまに本当に細かく教えていただきました。当時あまりに頻繁に稽古に行くので、稽古好きの父も『また行くの?』と驚いていたくらい。明治座さんで演じるのは初めてなので、劇場の構造もしっかり考えて作っていきたいと思っています」と意気込む。