戦禍逃れアニメつくる夢へ前進 ウクライナ出身のアナスタシアさんが文星芸大に入学 祖国の家族思い日々勉強
ロシアのウクライナ侵攻の戦禍を逃れ、約2年前にウクライナから日本に避難してきたタラダイ・アナスタシアさん(22)が今春、宇都宮市の文星芸術大に入学した。「日本でアニメーションに関わる仕事に就きたい」。夢に向けて一歩踏み出した一方で、祖国に残る母や祖父母、軍隊で戦う兄を思わない日はない。ロシア軍はウクライナ東部ハリコフ州で攻勢を強めている。アナスタシアさんは「戦争が一日も早く終わってほしい」と願う。 ロシアの軍事侵攻が始まった2022年2月、アナスタシアさんはウクライナの首都キーウで母、祖父と3人で暮らしていた。同24日午前5時ごろ、「起きなさい」という祖父の叫び声で目が覚めた。状況が飲み込めずにいるうちに、バーンと何発もの爆音が鳴り響いた。急いでニュースを確認し「戦争だ」と悟った。 一時は地下に避難した。自宅に戻ってからも「怖くて眠れなかった」。街を脱出しようとする人たちで道が混雑し、普段は車で2時間の道のりを半日かけ移動し祖母の家に身を寄せた。 アナスタシアさんはその後、ポーランドへ出国。避難民の支援団体から援助を受け、同年6月に来日した。高齢の祖父母と母はウクライナに残った。 日本で学ぶことが幼少期からの夢だった。きっかけはスタジオジブリなどのアニメーション作品。「『千と千尋の神隠し』が特に好き。作品で描かれるいろんな神様や礼儀、歌に感動し、日本の文化に興味を持った」と目を輝かせる。 来日後は東京都内で過ごし、仙台市に移った。居酒屋でアルバイトをしながら日本語学校に通い、「自然豊かで静かな所で暮らしたい」と本県の文星芸術大への進学を決めた。現在はデザイン専攻の1年生として基礎を学んでいる。 「専門的に美術の勉強ができてうれしい」。流暢(りゅうちょう)な日本語でにこやかに話す傍ら、ウクライナに残る家族の身を案じ、毎日ニュースで戦況を確認している。 兄のビクターさん(31)は軍事侵攻後、祖国を守るために軍に入隊した。危険と隣り合わせの日々の中、アナスタシアさんの大学進学を喜び、費用の一部を援助してくれた。兄からの連絡が滞ると、不安で眠れず食事も喉を通らなくなる。 「戦争は命や生活、仕事、全てを奪う」。アナスタシアさんは戦争の早期終結を祈りながら「応援してくれる家族のためにも頑張る。将来は日本で働いて、家族の生活を支えたい」と前を向いている。