『ブギウギ』趣里×水上恒司の渾身の芝居に涙が止まらない あまりにも幸福な“夢”の中の2人
愛助(水上恒司)が大阪で静かに息を引き取ったその頃、東京ではスズ子(趣里)が元気な赤ちゃんを出産していた。朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)第86話では、出産から2日後、愛助が亡くなったことがスズ子へと伝えられる。 【写真】最後のちからを振り絞って手紙を書く愛助(水上恒司) 「ボンは亡くなりました」という山下(近藤芳正)の言葉に、スズ子は現実を受け止められない。タイトルバック前の無音の演出から、生気を失った表情でじっと窓を見ているスズ子の画は日中から月明かりが病室を照らす夜、そして鳥がさえずる朝へと流れていく。ベッドには愛助の丹前。これがスズ子にとっての形見となってしまった。 大阪からやって来た矢崎 (三浦誠己)は、愛助から預かってきた預金通帳と最後の手紙をスズ子に渡す。そこから病室の画はオレンジに染まる夕暮れへ。一睡もせず、何も口にせず、すでに1日以上が経過していることからも、スズ子にとっての深い悲しみーーまでもまだ感じられない、感じたくない、それだけショックだったことが分かる。 山下(近藤芳正)と坂口(黒田有)にやっと口を開いたのは、「何でワテの大切な人は、早ういなくなってしまうんや。ワテも死にたい」という言葉。ツヤ(水川あさみ)と六郎(黒崎煌代)というスズ子にとって大切な家族が先立ち、そして愛助もまた……。山下からの必死な励ましをきっかけに、スズ子は視界に入った愛助の手紙の封を開ける。 手紙に同封されていたのは、スズ子との箱根旅行の写真。2人で過ごした最後の時間、幸せな時だ。愛助が最後の力を振り絞り、スズ子に伝えたかったのは、出会えて幸せだったこと、「父なし子にしたくない」というスズ子との約束を守れなかったことへの謝罪、男の子が生まれたら強い子に育つようにと「カブト」、女の子が生まれたら愛助の「愛」の字をとった「愛子」にしてほしいという思いだった。 「スズ子さん、つらいことがあったら歌ってください。そして、今スズ子さんの横で可愛い顔してる赤ちゃんを見てください。その子は僕らの宝物や。きっと、その子と一緒なら何があっても生きていけるはずや。ホンマにごめんなさい」 悲しみが到達し涙を流すと同時に、スズ子の顔に徐々に生気が戻っていく。思いが溢れ愛助の名前を叫び、気がつけば赤ちゃんの泣き声にスズ子は「愛子」と叫んでいた。歌手として、母として。再びステージに立つ姿を心待ちにしてくれているファンのために、天国にいる愛助のために。愛する愛子と生きることを選んだスズ子は強い。スズ子と愛助の間にあったかけがえのない日々と愛、それらを力一杯に抱きしめながら未来へと次のステップを踏んでいく、人が立ち直っていく様を体現した趣里の芝居に涙が止まらなかった。 縁側で愛子を抱く愛助に、スズ子が「ラッパと娘」を歌ってあやしている。ベッドで眠るスズ子が見た夢は、愛助と叶えたかったもう一つの約束の未来だ。『ブギウギ』ではスズ子の生活の中には歌があることが印象的に描かれてきた中で、愛助の「つらいことがあったら歌ってください」という言葉が生きてくる。スズ子はこれからも歌い続ける。そこには愛助との思い出も乗せて。これからスズ子のステージが希望へと続いていくことを、我々は第1話のオンエアですでに知っている。
渡辺彰浩