五輪代表12名の狭き門へと臨む、今村佳太の覚悟「チャンスは確実に少ない。そのチャンスを生かせるかは自分次第です」
「崖っぷちの危機感を常に持ちながら日々戦っていく必要があります」
男子日本代表は6月22日、23日に北海道でオーストラリア代表との強化試合を行う。オーストラリアはFIBAランキング5位の強豪だが、今回の来日メンバーはNBA組はもちろんのこと、前千葉ジェッツのゼイビア・クックス、島根スサノオマジックのニック・ケイを含むパリ五輪候補メンバーは誰も参加せず、国内リーグ(NBL)の若手メンバーが中心だ。デューク大のタイリース・プロクター、カンザス大のジョニー・ファーフィーといったNCAAの名門で活躍する有望株も含まれていないため、パリ五輪で8強入りを目標としている日本にとっては勝たないといけない相手だ。 だからこそ、12名のメンバー入りの当落線上にいる選手にとっては、しっかりと結果を残すことが求められる2試合となる。そして、今村佳太もこの過酷なサバイバルレースに臨む一人だ。ワールドカップ2023に向けた選考レースでは持ち味を全く発揮できず早々に脱落した今村だが、ワールドカップ後に行われた2月のアジアカップ予選ウィンドウでは少なからずインパクトを残すことができた。最初に選ばれた時は主にシューターと見られていたが、2月は持ち味であるハンドラーとして起用されたことが大きかった。 今村はギリギリの立場にいる緊張感を持ちつつ、自分の特徴をしっかりと首脳陣に理解してもらえることへの手応えを語る。「安心感はないですけど、自分の求められていることだったり、やるべきことが明確になっているのは、合宿に入る上でやりやすい環境になってきていると思います。ただ、やっぱりトライアウトで落とされる可能性、生き残る可能性もある中で、崖っぷちの危機感は常に持ちながら日々戦っていく必要があります」
「キャリアのない選手でも努力次第でチャンスをつかめることを自分が一番示せる」
第2次強化合宿は6月3日から始まったが、Bリーグファイナルを戦っていた今村はコンディション調整を考慮され、合宿に合流したのはベテラン組と同じく、メディア公開日前日の6月11日からとなった。狭き門を生き残るためには「自分が何を求められていて、何ができるかを常に考えながら、良い準備をしなければいけない。自分の特徴を出していくことを意識して毎日やっていきたいです」と考えている。 そして、ハンドラーとしてチャンスメイクを期待されている中でも、「一番はっきりと分かりやすく、チームに与えられる影響と思っているので大事にしている部分です」と得点面も重要視している。さらに、限られたプレータイムとなっても、その中で結果を出さなければいけないことも認識している。「自分が絡めるチャンスは確実に少ないと思っています。そのチャンスを生かせるかは自分次第です。また、ディフェンスもすごく自信はついていますし、2ウェイ選手としてのこだわりを持っています」 現在、合宿に残っているメンバーの大半は高校、大学時代からトップレベルで活躍し、エリート街道を歩んできた選手たちだ。だが、今村は大学時代にインカレで結果を残したことはあるが、高校時代は全くの無名で、エリートと言える存在ではなかった。しかし、プロ入り後に着実にステップアップを遂げ、今や琉球ゴールデンキングスを3年連続ファイナル進出に導く立役者となり、リーグ屈指の選手の1人となった。 そして、自身のような叩き上げの選手が五輪出場を果たすことで、多くのバスケ少年、少女に勇気を与えたいと考えている。「自分は他の選手たちと比べると、本当に輝かしいキャリアではないです。そんな選手でも努力次第でチャンスをつかめることを、自分が一番示せるかと思っています。そういう意味でも、全国の子供たちに希望や夢を与えられるように頑張りたいです」 6月14日、今村は3年契約の1年目を終えた段階での契約解除によって、琉球を退団することが明らかになった。大きな驚きを与えるニュースとなったが、今シーズンの今村はこれまでと比べてもハンドラーとしてボールに絡む回数が大きく減るなど、新たな役割を見出すことに苦戦していた。 リーグ連覇を逃したファイナル第3戦の終了後には、次のようにシーズンを総括していた。「今シーズンは自分のキャリアの中でも、チームとして自分のやることの最適解は何なのか、すごく悩みながら進んでいました。その中で3年連続ファイナルにいけるチームはなかなかないので誇りに思っていますが、達成感というよりは不完全燃焼の気持ちの方が強いです。より大きな壁にぶつかりましたが、これを超えられるかは自分自身だと思います」 この壁を乗り越えるために、今村は慣れ親しんだ環境を離れることを決意したのではないだろうか。今村にとって1週間後のオーストラリア戦は、この飽くなき向上心と、成長への覚悟の強さを示す舞台になるはずだ。
バスケット・カウント編集部