松商学園の新井文理さん 新たな肩書「コンダクター」としてチームをけん引 高校野球長野大会
全国高校野球選手権長野大会で松商学園の記録員としてベンチに入った新井文理さん(3年)の肩書は、「指揮者」を意味する「コンダクター」。昨冬に右足首の靱帯を損傷し、裏方に徹する決意をした新井さんに、マネジャーでも記録員でもない新たな役割が与えられた。松宗勝監督は「ただのサポートではなく、時に監督や主将よりも前に出て指示し、チームを勝利に導いてほしい」と思いを込めた。 家族の影響で、新井さんは物心ついた頃から「甲子園出場」が夢で、それをかなえるために軽井沢中から松商学園に入学した。だからこそ、けがをした昨冬以降、選手を続けるか悩んだ。転機は記録員を務めた春の県大会。1回戦で敗れ、新井さんは「チームが勝つために支える役割が必要」と痛感した。「その役割を担うのは自分しかいない」。夢の甲子園を新しい形で目指すと決めた。 新井さんの決意を聞いた松宗監督は「目的を持って、胸を張ってチームを引っ張ってほしい」と肩書をコンダクターにした。自身も松商学園野球部OBで、最後の夏はベンチの外で試合に出る選手たちを支えた。「ベンチ外の選手がどれだけ自分自身を充実させられるかがチーム力に表れる」との考えから、肩書の名称にこだわった。 20日の長野大会準々決勝で新井さんは、スコアブックを片手に終始立ったまま試合を見守り、全身を使って選手に指示を出した。コンダクターになるまでは人に指示するのも、思いを伝えるのも苦手だったという。「チームを導く役割を担い、自分を決め付けず『もっとできることがある』と思えるようになった」と話す。 甲子園の夢はかなわなかった。試合後「もっとできることがあった」と涙した新井さん。成長したからこそ、悔しさが一層募った。
市民タイムス