「3年間ずっとあった」劇的残留も退団決断の浅野拓磨。ボーフムで感じた葛藤「人のせいとか、ボールを受けないとか...」【現地発コラム】
「点を取れなければない取れないほどチームに責任は感じる」
浅野は試合後にこう述懐している。 「何かを失ってしまう状況というのは、やっぱり消極的になりがちです。みんなが動かなくなったり、ボールを受けたがらなくなったり、失点に絡んでしまったら人のせいにしてしまったりとか、ボールを失うの嫌だから受けなかったりとか。ボーフムに3年いますけど、そういう状況がずっと3年間あったかな。僕自身もそう。やっぱり点を取れなければない取れないほどチームに責任は感じます」 「でも失うものがなくなればなくなるほど、全員もやるしかないっていうメンタルになるのは人間当たり前だと思う。そういう気持ちを持ってプレーできれば全員が動いて、全員がボールを受けて、全員が自信持ってプレーするっていうチームになれると思うんです。そこはこの3年また感じた経験かなと。とにかくやるしかないという気持ちでプレーできる。そのメンタルを常に持って、自分のものにするのは難しいですけど、このチームで学んでることかなとは思います」 スポーツは心理面の影響がとても大きい。心理的優位を保つことができると思い通りのプレーができたりするし、圧倒されるとまるで身体が動かなくなったりしてしまう。 まさにボーフムはデュッセルドルフを心理的に凌駕した。効果的な仕掛けの数々で、入れ替え戦のMVP級の活躍を見せたケビン・シュテーガーは「今日は全員がヒーローだ」とチームとしての成果を喜び、シュロッターベックは「批判的なコメントをしていたみなさんにご挨拶したいね」と軽快に笑った。 印象的だったのは残留を決める喜びの輪の中でFWフィリップ・ホフマンと、MFマキシリミリアン・ビテックの二人がリーマンのGKユニフォームを着ていたことだ。 ビテックは「彼もチームの一員だから。シーズンの間、素晴らしいGKだということを何度も示してくれた」とメッセージを送る。少し言い過ぎたかもしれない。ジェスチャーがネガティブに映ったのかもしれない。でもチームメイトはリーマンのことを《大事な仲間》だと受け止めていたし、だからこそ彼のためにも、と戦っていたのだろう。 キャプテンのロシッラは夢見心地で言並べた。 「これこそがボーフムだよ。まさに自分たちがプランしたとおりに試合が進んだ。この日まで毎日、どうやったら成し遂げられるかを考えて、夢にまで見ていた。この瞬間をただ味わいたい」 劇的残留を果たしたものの、浅野がボーフムを離れることになった。様々な葛藤を感じたこの3年間を新天地でどう生かすか。 取材・文●中野吉之伴