「モデル年金」の基になる世帯構成が見直されると聞きました。何が問題なのでしょうか?
新モデルは3つ?
実は、同審議会では20年以上前から年金の給付水準の示し方について、世帯構成の多様化に対応すべきとの議論が重ねられてきました。以下は、記録されているコメント事例です(※1)。 ・若い世代では共働き世帯が急増し、モデル年金のリアリティーが薄れている ・モデルとして共働き世帯を想定し、女性の一定の厚生年金加入期間を前提としたモデル年金を想定していくことが妥当 ・女性の被保険者について、その厚生年金加入期間や賃金をどのように考えるか ・単身世帯を想定したモデルについても併せて検討すべき これらの意見からも、ひとつの新しいモデルに置き換えるのではなく、「片働き」「共働き」「単身」の3つのパターンで示す方法がありそうです。その際、女性全体平均だと男性より低くなる賃金の設定がポイントになるでしょう。 男女雇用機会均等法施行年に新卒入社した女性が60歳を迎え始めたこともあり、定年まで正社員のケースと、いったん退職しその後非正規雇用で社会保険加入したケースの2つがあってもよいのではと考えます。 単身世帯は、共働き世帯の男女それぞれをモデル年金とみなせますが、男性も正社員以外の雇用形態を追加できると、多様なライフコースをモデルに取り込む趣旨に沿うのではと思います。
「標準世帯」が残っている
モデル年金の根拠となった世帯の考え方と同様に、実は総務省の「家計調査」においても、1970年代に「標準世帯」という考え方が採用されています(※3)。 「夫婦と子ども2人の4人家族」で、有業者が世帯主1人だけの世帯を指します。現在は標準世帯という用語を使っていませんが、今でもさまざまな統計でこの世帯構成が使われています。 モデル年金は有業者数の変化ですが、世帯の構成自体が当時から大きく変化していることが、次の図表2から分かります(※4)。
出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」 児童とは、18歳未満の未婚の子を指します。2022年には、児童2人の世帯は6.9%に過ぎません。世帯の構成と有業者数の双方で、もはや「代表的な単一モデル」は存在しないといえます。 「標準」や「モデル」が実態とかけ離れていると、政府や自治体が施策を誤ったり、多くの人にとって使い物にならなかったりする恐れがあります。実態を映し出したモデル年金が示されることを期待しています。 出典 (※1)厚生労働省 年金局 多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方 (※2)厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保- 図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移 (※3)総務省統計局 家計調査 用語の説明 (※4)厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況/結果の概要 I 世帯数と世帯人員の状況 厚生労働省 社会保障審議会(年金部会) 執筆者:伊藤秀雄 FP事務所ライフブリュー代表 CFP(R)認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
ファイナンシャルフィールド編集部