魔の15分と金本イズム 阪神の9点差大逆転劇はなぜ起きたのか
勢いはもう止められない。 「中断したあとの健斗(糸原)の姿を見て気迫をもらって、初球からいかなければいけないと、思い切りいった」。梅野は外のストレートに逆らわなかった。右中間に勝ち越しの2点タイムリー三塁打を放ち、ついに11-9でゲームをひっくり返したのである。 打率1割台だった梅野は、左肩が入りすぎバットが遠回りしていた。しかし、神宮のヤクルト戦から一変した。左肩が入ってもトップの位置は残っているのだ。力みが消えてバットがスムーズに出る。「いろんな方のアドバイスをもらって自分というものをまた見つけ出したような気がします」。 「若い選手の力とベテラン選手の粘り。全員の力で勝った」 金本監督は、そう言った。 今季、金本監督は、結果が出なければ誰であっても容赦なくスタメンから外す。新人王の高山も、育成の星の原口も、鳥谷までも外れた。梅野もミスの翌日にベンチを暖めた。新外国人のキャンベルも同様だ。タブーなき、完全実力主義の選手起用に、若手は危機感を抱く。だからこそ、9点差であろうが、試合の展開を読んで“流す”ようなことはできない。全打席が勝負なのだ。 メンバーがコロコロと替わることは「チームの形がない」とも言えるが、今のところそれはチームメンタルに厳しさを植えつけることになり、チームの集中力を生み出す底上げにつながっている。 広島の油断。リプレー検証の15分間という魔の時間。そしてチームに浸透しつつある金本イズム……9点差の大逆転を生んだ正体を言葉にすれば、そういうものになるのだろうか。 さて前段に書いた優勝するチームの転機となる試合の話である。この試合、内外野の連携ミスもあった。糸井の足が動かずに左中間を抜かれてしまったミスもあった。守れないチームにも、また優勝の資格はないのである。 この歴史的な9点差大逆転ゲームを伝説として語るのは、まだ早すぎるのだ。