中村勘九郎・七之助「明治座十一月花形歌舞伎」に中止公演の悔しさぶつける「帰ってこられてうれしい」
中村勘九郎・中村七之助らが出演する「明治座 十一月花形歌舞伎」の製作発表が、本日9月27日に東京都内で行われた。 【画像】左から中村七之助、中村勘九郎。(他8件) 2011年に東京・明治座でスタートした「明治座花形歌舞伎」は、次世代を担う花形俳優が大役に挑む公演。勘九郎と七之助が明治座に出演するのは、2016年の「明治座 四月花形歌舞伎」以来、約8年ぶりのこと。なお2020年に、2人を中心にした「明治座 三月花形歌舞伎」が予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で全公演中止になっている。 製作発表には、勘九郎、七之助、そして松竹の山根成之取締役副社長、明治座の三田芳裕代表取締役社長が出席。勘九郎は、中止になった2020年の明治座公演を「久々の明治座さんへの出演ということで、気合を入れて稽古に励んでいた中で、未知のウイルスが蔓延して。“もしかしたら、お客様にお目にかけられないかもしれない”という状況下の中での稽古が本当にきつく、心のバランスを保つのが大変でした」と振り返り、「こうやって明治座に帰ってこられることを、本当にうれしく思います。お客様に観ていただけなかった悔しさをぶつけられる、良い機会だと捉えています」と真摯に語る。 七之助は「私も、(2020年)3月から8月まで舞台に立てないという人生で初めての経験をいたしまして、職業を変えなくちゃいけないんじゃないかと本気で思いました。こうして皆様のお力で、明治座に戻ってこられましたことを本当にうれしく思います」と微笑む。なお、中止となった公演では「桜姫東文章」の通し狂言が予定されており、上演に向け、七之助は坂東玉三郎、勘九郎は片岡仁左衛門にそれぞれ役を習った。七之助はこの経験を「私は、桜姫というなかなかできないお役を玉三郎のおじさま、兄は(清玄と釣鐘権助の2役を)仁左衛門のおじさまという、“2人の天才”に手取り足取り教わり、舞台稽古までできました。このことは、私の俳優人生の中でも数えるほどの素晴らしい出来事でしたし、それをお客様にお見せできなかったのは、俳優として悔しかった」と言葉に思いをにじませた。 上演演目には、昼の部に「『菅原伝授手習鑑』車引」「一本刀土俵入」「藤娘」、夜の部に「『鎌倉三代記』絹川村閑居の場」「於染久松色読販『お染の七役』」が並んでいる。なお、「車引」と「一本刀土俵入」は、中止となった2020年公演にもラインナップされていた。「一本刀土俵入」で勘九郎が勤める駒形茂兵衛は、勘九郎の祖父の十七世中村勘三郎、父の十八世中村勘三郎も勤めた役。勘九郎は「出演者みんなで力を合わせて、“江戸の匂い”をお客様に感じていただきたい」と目標を掲げつつ、「(茂兵衛は)父から細かく教わり、浅草公会堂で初めて勤めました。父が茂兵衛を勤めたとき、僕は一緒に舞台には出ていなかったんですけど、稽古場で、父の迫力に周りの方々がビビっていたのを覚えています。祖父もそうですが、あの目でにらまれると、覚えているはずのセリフが出てこなくなっちゃうんですよね(笑)。僕も年を重ねましたので、そういう味が出れば」と意気込みを話す。 「お染の七役」では、七之助が油屋娘お染・丁稚久松・許嫁お光・後家貞昌・奥女中竹川・芸者小糸・土手のお六の7役を早替りで演じる。七之助は、早替りについては「気持ちとしては(F1の)ピットインです(笑)。床山さん、衣裳さん、お弟子さんとの“イキ”のみですね」と語り、「舞台上のことは、玉三郎のおじさまから細かく教えていただきました。おじさまにはお忙しい中、稽古好きな父が『また稽古?』と言うぐらい、何回も何回も稽古をつけていただきました。初役は平成中村座での公演だったのですが、舞台稽古の際、玉三郎のおじさまには、早替りの部分も『ここに鏡を置くとやりやすい』といった細かなところまで、的確に教えていただきました。明治座さんでやるのは今回が初めて。舞台稽古の際にはみんなで話し合い、力を合わせて、一生懸命演じたいです」と思いを述べる。勘九郎は「七之助が7役すべて演じるのは、今回が5回目。七之助がよく言っているのは『早替りショーにならないようにしたい』ということです。1つひとつの役を的確に演じ分けないといけなくて、特に後家(貞昌)の役は、若い頃は難しかったと思うんですけど、彼も年齢を重ねて幅ができてきて、“どこをどう見せるか”ということを的確に掴めてきている。今回、僕は出演していないので、外からの目で観られることを、とても楽しみにしています」と、七之助に期待のまなざしを送った。 「鎌倉三代記」では、佐々木高綱を中村勘九郎、三浦之助義村を坂東巳之助、そして時姫を中村米吉が、それぞれ初役で勤める。勘九郎は「『鎌倉三代記』は、時代物の超大作で、なかなかかからない演目です。時姫は、女方の大役である三姫の1つなのですが、米吉くんは今回の公演で三姫を全部コンプリートすることになります。そのタイミングに立ち会えるというのも楽しみですね。三浦も本当に良い役で、僕も(高綱より)三浦の方がやりたかったなと思うぐらい(笑)。魅力が詰まった作品ですので、先輩方の教えをしっかり受け継いでやっていきたい」と話す。七之助は、米吉が昼の部ラストの「藤娘」にも初役で挑むことに触れ「米吉くんは今年結婚しまして、これからもっともっと俳優として成長していくと思います。コロナというもののせいで、伸び盛りの若手たちを中心にした公演が、なかなかできない時期が続いておりました。彼も、そういった苦しい思いをずっとしてきたと思いますので、そのフラストレーションを、ここでガツンと晴らしてもらえたら」と、熱いエールを送った。 「明治座 十一月花形歌舞伎」は、11月2日から26日まで東京・明治座にて。 ■ 「明治座 十一月花形歌舞伎」昼の部 2024年11月2日(土)~2024年11月26日(火) 東京都 明治座 □ スタッフ 二、「一本刀土俵入」 作:長谷川伸 演出:村上元三 □ 出演 一、「『菅原伝授手習鑑』車引」 松王丸:坂東彦三郎 梅王丸:中村橋之助 桜丸:中村鶴松 藤原時平:坂東楽善 二、「一本刀土俵入」 駒形茂兵衛:中村勘九郎 お蔦:中村七之助 堀下根吉:中村橋之助 若船頭:中村鶴松 酌婦お松:中村梅花 波一里儀十:喜多村緑郎 船印彫師辰三郎:坂東彦三郎 老船頭:市川男女蔵 三、「藤娘」 藤の精:中村米吉 ■ 「明治座 十一月花形歌舞伎」夜の部 2024年11月2日(土)~2024年11月26日(火) 東京都 明治座 □ 出演 一、「『鎌倉三代記』絹川村閑居の場」 佐々木高綱:中村勘九郎 時姫:中村米吉 おくる:中村鶴松 母長門:中村歌女之丞 三浦之助義村:坂東巳之助 二、「於染久松色読販『お染の七役』中村七之助早替りにて相勤め申し候 浄瑠璃『心中翌の噂』」 油屋娘お染・丁稚久松・許嫁お光・後家貞昌・奥女中竹川・芸者小糸・土手のお六:中村七之助 鬼門の喜兵衛:喜多村緑郎 油屋多三郎:坂東巳之助 船頭長吉:中村橋之助 丁稚長松:坂東亀三郎 腰元お勝・女猿廻しお作:中村鶴松 山家屋清兵衛:坂東彦三郎 庵崎久作:市川男女蔵