効率的にスキルアップ・学習できるフレームワーク・「DiSSS」メソッド
読者のみなさんのなかには、「DiSSSメソッド」という名前を聞いたことがある人もいるかもしれません。 その場合はおそらく、趣味の習い事や仕事で新たな技能を身につけるといった、「新たなスキルを学ぶ」という文脈で耳にしたことでしょう。 生産性と学びの権威として知られるティム・フェリス氏が提唱するこのメソッドは、学ぶべきことを小さな要素に分割することで速やかに身につけるというもの。 実は、学習の効率アップにも応用可能です。それでは早速、DiSSSの基礎知識を紹介し、勉強のルーティンへの組み込み方をご説明しましょう。
「DiSSSプロセス」とは?
DiSSSは略語ですが、実は、単語の頭文字以外の余計な文字があります。2文字目にある小文字の「i」がそれで、このiは、発音しやすくするために加えられたものです。 注目すべきなのは、1文字目の「D」と、3つの「S」で、それぞれが以下の単語の頭文字になっています。 D:Deconstruct(分解) S:Select(選択) S:Sequence(段取り) S:Stakes(動機づけの設定) 新しいスキルを学ぶ、あるいは、学習すべき新しいトピックを探求するとき、この4ステップに従うことで、学びのプロセスを単純化し、時間を短縮して、効果を高めることができます。 つまり、より多くの成果を、より早く得られるわけです。
DiSSSの4ステップ
分解(D:Deconstruct) まずは、手元にある教材を「分解」しましょう。これはできるだけ小分けにするのがベストとされています。 1学期分の情報をまとめて目をとおすよりも、1章ごと、1単位ごとなど、自分が勉強するうえでやりやすい大きさまで分けるようにしましょう。 これはつまり、一夜漬けですべてを一気に詰め込むのではなく、その都度分けていくということになりますが、その点についてはのちほど、3つ目の「段取り」のステップで触れることにしましょう。 分解の際には、一番役に立つ最小の情報を見つけることが肝心です。そのためには、「SQ3R」などのメソッドを活用してください。 なお、SQ3Rは、Survey(調査)、Question(質問)、Read(読む)、Recite(暗唱・復唱)、Review(復習)の略です。章のタイトルや見出し、図表キャプションや、用語集に載っている単語などの主要な要素に注目することで、教材から情報を得ます。 教材から、基本的かつ重要に見える情報をすべてピックアップしましょう。このとき、解説などの詳しい説明には気を取られないようにします。あとで再構築するために、ここで分解するのです。 この作業をする際、私のおすすめは、多くを手書きで抜き出すことです。手書きのほうが、情報を記憶するのに効果的なことが知られています。それに加えて、自分が勉強している内容を記録し、目に見える成果物の形にしておくのも有益です。 書き留める先はどんなノートでもいいのですが、せっかくなので、SQ3Rメソッド専用のノートを買うことをおすすめします。これなら、教材の内容にラベルをつけたり、カテゴリー分けしたりする手間が省けます。 選択(S:Select) 次に、「選択」のステップに進みましょう。選択という名前ではありますが、実際には、あなたの勉強にかける労力に「パレートの法則」を当てはめるプロセスです。 別名「80:20の法則」とも呼ばれるパレートの法則は、一般的には、成果の80%が、全体の20%の能力から生み出されるという経験則です。 わかりやすい実例としては、楽器を習うプロセスが挙げられます。演奏可能なすべての音やその組み合わせを考えてみると、最終的に演奏する内容のうち8割の基礎となる「もっともよく使われるコード」の割合は、実はわずかです。ギターの場合、基本的なコードを2つ3つ覚えれば、たいていの曲は弾けるめどが立つはずです。 勉強についても同じことが当てはまります。学ぶべき内容全体(あるいはテストの内容)のうち8割の基礎を構成すると期待される、一番基礎的な、カギを握る概念を頭に叩きこむことが大事です。 集中すべき領域を絞り込み、用語集に載っている単語や、レッスンで一番の基礎となる部分を、ほかの何よりも頻繁に、熱心に学びましょう。 段取り(S:Sequence) 分解と段取りまでやっておけば、次の「段取り」に入りやすくなります。これはつまり、勉強のルーティンの流れを計画するステップです。 時間や労力を要する難しい部分にとりかかる前に、まずは、スケジュールを作成する必要があります。1つ前のステップで触れた「主要な20%」を把握したうえで、基礎となるスキルを身につけることに重点を置いたスケジュールです。 勉強に費やす時間枠をあらかじめ決めておき、それらの時間枠を、それぞれのトピックや理論を学ぶ時間に分割します。 その際には、テストに出る可能性が高く、すべての内容の基礎となる学習に、まとまった時間を割くようにしましょう。 このとき、単語帳のようなフラッシュカードを作り、「ライトナーシステム」を取り入れると効率的です。何度か繰り返して復習するという勉強法で、自分が苦手にしている内容や、逆にあまり復習の必要がない内容を特定することに役立ちます。 この方法を使えば、しっかり覚えるまで基礎を叩き込むことができますし、より難しい項目へも自然に移行することができます。 動機づけの設定(S:Stakes) さて、DiSSSメソッドの最後のステップは「動機づけの設定」です。具体的な損失や利益があれば、良い成績を上げやすくなるものです。たとえば、期限が定められていると、仕事の効率が上がるといったことです。 フェリス氏の提唱する標準的なDiSSSモデルは、新たなスキルを身につけようとする人向けのものなので、同氏はこうした人に対して、必要な労力や時間を割かなかった場合に、個人的にどんな嫌なことが起きるか、あらかじめ考えておくよう求めています。 ここで再び楽器の弾き方についての例えを使うなら、発表会が迫っているのでピアノをより一生懸命に練習する、といったことです。 勉強の場合は、目標はより明確です。つまり、間近に迫ったテストで合格点を取り、最終的には単位をとることがそうでしょう。 授業で当てられたときに、答えがわからなくて恥ずかしい思いをしたくはないでしょうし、自分が選んだ進路に必要なスキルを身につけたいと思っているはずです。 勉強に関する目標を達成できなかったり、決めたスケジュールを守れなかったりしたときにどんな困ったことが起きるのかを思い起こし、ノートやスマホに記録しておきましょう。 学校であれば、小テストで不合格になる、さらには専攻科目の変更を迫られる、といったことが不本意な事態として考えられます。 この方法論は、仕事の段取りをつける際に「逆目標」を立てるやり方に似ています。これは、「やりたくないこと」を明確化して避けるというものです。このように、ときにはネガティブな感情が、大きなモチベーションの源泉になることがあります。 失敗したり、同級生の前で恥をかいたり、再履修を迫られたり、時間を無駄にしたりするのは嫌だという人なら、勉強しなかった場合に自分が被る、現実的な不利益を書き留めておくことが、タスクに継続的に取り組む後押しになるでしょう。 ポジティブな目標も書こう とはいえ、前向きな動機も大切です。ゆえにノートの紙面には、特定の目標を達成したときに自分に与えるご褒美を書いておくスペースを設けておきましょう。 この設定作業を手間なく行ないたいなら、ポモドーロならぬ「アニメドーロ」(ポモドーロテクニックの休憩時間にアニメを視聴することで、やる気を保つメソッド)や類似のテクニックを使って、自分が毎晩スケジュールを守って勉強したときに得られるご褒美の具体的内容(たとえば、一番好きな番組を30分見るなど)を書いておくと良いでしょう。 さらに大きな成果のご褒美として、たとえば、テストで「B(良)」をとったらこれ、「A(優)」をとったらあれ、期末レポートでAをとったらこんなものを自分にプレゼントする、というように決めておきましょう。 ここで大切なのは、勉強をして教材をマスターしたときのご褒美と、うまくいかなかったときに起きる悪い結果の両方を書き留めておくことです。 最後に、成果が出たときには、自分にご褒美をあげることを習慣づけてください。 「学校で、自分が賢いところをみんなに見せることができた」といった小さな成果から、「無事に卒業し、自分が希望する分野に就職できた」という大きなものまで、うまくやることで得られる、ポジティブな成果を入れることが大切です。 ネガティブとポジティブ、両方の動機づけを組み合わせることで、単に1つのテストで合格点を取る以上の、より大きな視点に立って勉強に励むことができるようになるでしょう。 Soure: The Blog of Author Tim Ferriss, Amazon
長谷睦(ガリレオ)