商業登記規則の省令改正問題、与信態度が硬化も 金融・保険業の5割超が「与信管理がしにくくなる」と回答
Q1.法務省は商業登記簿(登記事項証明書など)の代表者住所について、非公開を可能とする省令改正を検討しています。非公開となった場合、貴社の与信管理への影響はどのように考えますか?(択一回答)
◇「与信管理がしにくくなる」が22.8% 代表者住所が非公開になった場合、「与信管理が大変しにくくなる」は4.7%(217社)、「少ししにくくなる」が18.0%(823社)で、影響が出るとの回答は22.8%(計1,040社)だった。 規模別では、「与信管理が大変しにくくなる」が大企業6.7%(458社中、31社)、中小企業4.5%(4,097社中、186社)だった。「少ししにくくなる」が大企業27.2%(125社)、中小企業17.0%(698社)で、影響が出るとの回答は大企業が12.5ポイント高かった。 大企業は、取引先に関する信用調査やコンプライアンスチェックは欠かさず実施する。代表者の住所非公開は与信管理のコストアップを招き、中小企業の飛躍の目を摘む事態も想定される。
産業別 与信管理が「しにくくなる」は「金融・保険業」の51.2%が最高
Q1の回答を「大変しにくくなる」「少ししにくくなる」「影響はない」「(大変、少し)やりやすくなる」の4つに分類し、産業別で分析した。「大変しにくくなる」が最も高かったのは「金融・保険業」の20.5%(39社中、8社)、次いで「農・林・漁・鉱業」の15.3%(26社中、4社)が続き、この2産業が10%超だった。2産業は「少ししにくくなる」も30%超で、影響が最も出そうだ。 対して、「大変しにくくなる」が最も低かったのは、「運輸業」の2.92%(171社中、5社)で、「製造業」も2.96%(1,347社中、40社)だった。
Q2.代表者住所が非公開となった場合、販売先(得意先)に対する貴社の与信態度はどうしますか?(複数回答)
回答が最も多かったのは、「営業担当者による動向把握を綿密にする」が63.7%(859社中、548社)で、「信用調査の回数を増やす」が41.0%(353社)で続く。住所を非公開にした理由の把握や、信用調査による確認などの与信強化も目立った。 また、「与信限度額の引き下げを検討する」が16.9%(146社)、「取引信用保険の活用を検討する」が16.0%(138社)、「代表者保証の徴求を検討する」が15.0%(129社)、「新規取引(口座)の開始(開設)を絞る」が11.0%(95社)、「不動産など物的担保の要求を検討する」が9.4%(81社)など、非公開にすることでコストアップと審査の煩雑さを招くことが想定される。 ◇ ◇ ◇ 省令案の意見について、日本弁護士連合会は「詐欺商法といった消費者被害を救済するための調査では一定の公開が必要。迅速に代表者の住所を知り得ないと会社を特定できない」などと表明。弁護士が住所情報にアクセスできる仕組みを求めている。 東京司法書士会は「代表の住所が非表示となった登記事項証明書では法人の本人確認資料として不十分で取引現場で混乱する可能性がある。非公開を講じられても資格者代理人が申請すれば確認できる仕組みを新設すべき」とした。 これまで与信管理の基本だった代表者の住所情報だが、省令改正が決定すると審査部門や金融機関の業務は大きく転換する。特に業歴が浅かったり、信用力の乏しい企業にとって与信上のマイナス面が懸念されている。