浜岡原発再稼働の行方、地元の意向どう集約?【「グラレコ」で可視化!静岡県知事選争点㊤】
15年ぶりに静岡県のリーダーが交代する今回の知事選(5月9日告示、26日投開票)。重要課題である中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)の再稼働、リニア中央新幹線、浜松市の新野球場整備の方向性を決める過程で知事は大きな権限を握り、立候補予定者の考えが注目される。これらの課題の論点とは何か。手書きの文字や絵で議論の全体像を可視化する「グラフィックレコーディング」を使って紹介する。 グラレコと略されるこの技法は、会議やイベントで対話の論点や構図をキーワードやイラストを使ってまとめ、思考をビジュアル化して記録する。今回の企画ではグラレコ制作者に静岡新聞記者が課題と論点を説明し制作してもらった。初回は「浜岡原発再稼働の行方」をテーマに、グラレコも業務とする一般社団法人シビックテック・ラボ(静岡市葵区)に依頼した。 東日本大震災で東京電力福島第1原発が甚大な被害を受けた影響で、浜岡原発は2011年5月から全炉停止が続く。原子力規制委員会は13年7月、より厳しい安全対策を求める新規制基準を施行。中電は14年2月、再稼働に向けて同基準の適合性審査を申請した。 南海トラフ地震に備え、中電は高さ22メートルの防潮堤や事故時に放射性物質の排出を低減するフィルターベントも設置。安全対策は総額4千億円に上る見込みだ。原発は発電時に二酸化炭素(CO2)の排出を抑えられ、安倍政権は昼夜問わず安定的に発電できる「重要なベースロード電源」と位置付けた。 一方、浜岡原発は南海トラフ地震の想定震源域に立地。川勝平太知事は「使用済み核燃料の処理方法が確立していない」として再稼働できる状況にないと強調した。原発事故時の避難対象となる半径31キロ圏内11市町の人口は80万人以上とされ、広域避難が計画通りに機能するかは不透明だ。 再稼働に進む場合は事実上、地元自治体の同意も必要となる。中電は浜岡原発の周辺4市(御前崎、牧之原、掛川、菊川)やその他31キロ圏に入る5市2町と別々に安全協定を結んでいる。両協定に再稼働に関する規定はなく、地元同意の範囲は決まっていない。これまで地元同意を得て再稼働した全国の原発12基では知事が同意を表明した。知事は県議会の意向も考慮する必要がある。いずれ浜岡原発が適合性審査に合格した時、再稼働への賛否をどう集約するのか知事の政治力が問われる。 シビックテック・ラボは自治体と市民の合意形成の場づくりにも参画する。市川希美理事は「原発再稼働のように多様な利害関係者がいる問題で県民の合意形成を図るには、賛否の判断基準となるデータをしっかり公開して、議論の過程を分かりやすく可視化してほしい」と話す。 <メモ>グラフィックレコーディングは1970年代に米国で活用が始まったとされる。ワークショップや講演会、インタビューにも使われ、話の流れに合わせリアルタイムで描く。複雑な話を整理し、全体像を可視化することで参加者の理解を深め、対話の活性化や合意形成を促すのに役立つ。話を聞きながら同時に描ける技能を身に付けられるよう講座なども開かれている。 グラレコ制作者 一般社団法人シビックテック・ラボ(静岡市葵区、市川博之代表理事) 自治体やNPOに向けた情報通信技術(ICT)や業務改革の支援、まちづくりなど各種計画の策定・支援に取り組む。講演や会議などのグラレコ制作も業務とする。
静岡新聞社