「オモウマい店」放送開始から4月で4年目 公式ファンブック発売を機にプロデューサーが語る番組づくりに大切なこと
人気番組「ヒューマングルメンタリー オモウマい店」(毎週火曜夜7:00-、日本テレビ系/TVerでリアルタイム配信)の公式ファンブックが12月14日に発売された。中京テレビのスタッフがカメラを持って日本全国の“オモてなしすぎでオモしろいウマい店”に潜入し、ユニークでおもてなし精神溢れる店主さんの人柄や生きざまを映し出してきた同番組。放送開始から約3年、岩元佑樹プロデューサーに今の思いを聞いた。 【写真】毎回びっくりのお土産をくれる『そば処ふくろう』(山形)の店主とタヌキのはく製 ■すてきな店主さんを見つけるコツは、自分の“感性”を大事にすること ――岩元さんはかつて、「ホテルからカメラを回すディレクター」として番組ファンにはおなじみでしたよね。 岩元:番組が始まった当初はADだったんですが、ディレクターを経て2023年4月にプロデューサーに就任しました。 ――番組開始から、2024年の春で早3年を迎えます。今の率直な思いをお聞かせください。 岩元:本当にあっという間の3年でした。オープニングCGに登場する店主さんの数もどんどん増えていって、今改めて見ると、これだけ多くの店主さんにお会いできたんだなと感慨深い気持ちになります。「オモウマい店」はもともと、『PS純金』(※)で取り上げてきた、“オモてなしすぎウマい店”は全国にもあるのでは?というところから始まった番組です。ファンブックでは2023年7月18日放送回までに登場した157店を紹介していますが、こんなにもたくさんの素晴らしいお店に出会えたこと。その数が今なお増え続けていることに改めて驚きました。 ※『PS純金(ゴールド)』は、高田純次とオリエンタルラジオの藤森慎吾が「やっぱり地元はオモシロイ」をテーマに東海エリアを紹介する番組(毎週金曜夜7:00-7:56、中京テレビ)。「オモウマい店」はその全国版として、同様の番組フォーマットとスタッフで制作された。 ――私も毎週楽しく拝見していますが、今思えばコロナ禍の真っ只中に番組が始まっているんですね。しかも、まだ制限が厳しかった時期。不安などはなかったのでしょうか? 岩元:不安がなかったわけではないですが、僕たち以上に飲食店の方々は相当しんどい思いをされていたと思うんです。それでもお客さんに喜んでもらいたいという一心で頑張っていらっしゃる店主さんたちの姿に僕たちも励まされましたし、そんな店主さんたちを応援したいという気持ちでいっぱいでした。ただ、ご高齢の店主さんも多かったので、当たり前ですがしっかりと感染対策をとりながら取材を進めてまいりました。 ――「オモウマい店」に登場する店主たちはホスピタリティに溢れているすてきな方ばかりですが、そういう店主さんがいるお店を見つけるコツなどはあるのでしょうか。 岩元:足で稼ぐというのも一つありますが、やっぱり一番は自分の感性を大事にするってことでしょうか。番組では、店主さんとディレクターないしADとの関係性も一つの見どころになっていますが、別にそこを描くことが本来の目的ではありません。一番の目的は店主さんの生きざまを描くことであって、スタッフとのやりとりはその一環です。そこから浮かび上がってくる店主さんの魅力に気づけるかどうかはスタッフ次第ですし、たくさんある魅力の中でどこにフォーカスを当てるかはそれぞれの感性に委ねられています。お店の探し方に関しても同じで、やっぱり人によって目の付け所が違うんですよね。 ――「店前にお花が飾られているお店はオモウマい?」「駐車場の白線が薄いお店はオモウマい?」といった法則を頼りにお店を探していたのも印象的です。 岩元:あれも、担当Dが「オモウマい店の前にはなぜかお花が飾られていることが多いんですよ」って会議で企画書を出してきたことがきっかけなんです。最初はそんなことないだろうって思ったんですけど、これまでのVTRを見返したら本当で(笑)。他にも僕だったら絶対に気づけないお店を新人のADが探してきたり、「ここのエリアは探し尽くした!」と思っていても、リサーチする人間が変われば、案外見つかるものなんだなというのが、この番組を続けてきて分かったことです。 ■頑張っている店主さんを見ていたら、しんどいなんて言ってられない ――お別れが寂しくて泣き出す店主さんもいるほど、この番組は本当に店主さんとスタッフの絆が深いですよね。その理由は何だと思われますか? 岩元:約40~50人のスタッフが全国各地でお店探しに奔走しているんですが、彼らが共通して持っているのは、やっぱり店主さんたちと同じで、相手に対する配慮や思いやりなのかなと思います。店主さんとお客さんの日常生活にカメラを持って入っていく僕たちの存在って異物じゃないですか。だからこそ、その日常をできる限り壊さないようにしなくちゃいけないし、僕たちから「こうしてください」と何かを指示することは絶対にないです。基本的には待ちの姿勢で、ありのままを映す。それに尽きるのかなと思います。 ――スタッフの数を聞いて驚きました。それだけの人数が各地に散らばっていると、状況を把握するのが大変そうです。 岩元:一応ルールとして、「どこにいつからいつまでいる」といった報告はしてもらっているんですが、基本的には個々人に任せています。年末年始も休暇をとって実家に帰省しているスタッフもいれば、取材でお店にいるスタッフもいる。なので、全員が同じ空気を吸うことはほぼなくて、唯一みんなで集まったのは総合演出を務める加藤優一さんの結婚式VTRを撮影した時だけです。僕自身もその時に「こんなスタッフがいたんだ!」って驚きました(笑)。 ――それなのにスタッフさん同士の仲が良いのが番組を観ていてすごいなと思います。 岩元:取材にはディレクターとADがセットで取材に行くことも多いんですが、そこで苦楽を共にするので自然と仲が深まるのかもしれません。僕もちょうど2年前の大みそかから元旦にかけて、山中AD(当時)と一緒に群馬にあるうどんの自販機コーナーを取材したんですが、寒いから結構大変だったんですよね。だけど今はそれも笑い話で、山中ADもディレクターになったんですが、たまに「取材どう?大丈夫?」って声をかけると、「雨風もしのげるし、寒くもないですし、あの時と比べたら全然平気ですよ」ってさらっと言うので頼もしいなと思っています(笑)。 ――撮影期間が長いのはもちろん、スタッフの皆さんは常にカメラを回しっぱなしなのでいつもその忍耐強さに驚かされます。 岩元:ロケ取材の時は歩きやすい靴が必須です。ホテルでも足の裏に湿布を貼って寝る子もいます。だけど、よく考えたら僕たちはただ立ってカメラを回しているだけだけど、その間も店主さんたちは動き回ってるじゃないですか。それなのに「疲れたでしょ」とか言ってコーヒーやお菓子を出してくれたりするんです。その姿を見ていたら、僕たちもしんどいなんて言ってられないですよね。本当に皆さんお元気だなと思いますし、人生の先輩として見習うべきところがたくさんあります。 ■これからも“オモてなしすぎでウマい店”の日常を映して ――12月14日に番組の公式ファンブックが発売されましたが、岩元さん自身、この本を読んで新たな発見などはありましたか?手に取った時の心境を教えてください。 岩元:まず取材させていただいたお店の情報が映像ではなく、こうして文字で残るのは貴重な経験なので、ページをめくるたびにうれしかったです。同時に、自分の担当じゃないお店の情報も改めて知れて良かったです。そんな風に「ああ、このお店もあったね」と会話の一つにしていただくのもいいですし、ガイドブックのような感覚で次に行くお店の参考にしていただいたり、色んな用途で使っていただけたらなと思います。 ――お店ごとに店主さんの金言が載っているのもいいなと思いました。 岩元:どの店主さんも印象的なことをおっしゃっていて、そこにお一人おひとりの仕事哲学や矜恃が詰まっているなと思ったんです。やっぱり僕たちスタッフもそうなんですが、店主さん世代の方とお話しする機会ってプライベートではなかなかないじゃないですか。だけど、長年生きてきた皆さんのお話しってすごく面白いし、勉強になります。 ――この番組の取材を続けてきて、ご自身の仕事観や人生観に変化はありましたか? 岩元:まだまだ自分も頑張らなきゃなと思いました(笑)。あとは単純に、そこまで打ち込める好きなことがあるっていいなと思います。店主さんたちの場合は、そのベースに思いやりがあるんですよね。皆さん共通して「お客さんに喜んでもらいたい」という思いを持っていらっしゃるのが印象的です。取材を続けて思うのは、そういう人たちの行きつく場所が飲食店なのかなと。人間の欲求の中でも食欲ってかなりプライオリティが高いので、そこを満たしてあげるということに喜びを感じる方が多いんじゃないでしょうか。 ――私も一ファンとして、オモウマの店主さんたちには、いつも「こういう人たちがいるんだったら、世の中捨てたもんじゃないな」と思わされています。 岩元:MCのヒロミさんや小峠英二さんもよく、「こういう人が増えたら争いがなくなる」とおっしゃってます。それに、店主さんたちも「おなかがいっぱいだと争いが起きないでしょ」って、テレビ向けに狙った感じじゃなく普通にさらっとおっしゃるんです。そういう風に、自分の手が届く範囲だけでも相手に思いやりを持って接していれば、平和だったり何かにつながると信じて続けていらっしゃるのが本当にすごいなと思います。 ――最後に、この3年間で気づいた番組づくりに大切なことを教えてください。 岩元:最初の方にも言いましたけど、やっぱり取材した人間が現場で感じたことをありのまま表現していくということに尽きるのかなと思います。店主さんやお客さんをいじったり、話を誇張したりするのは絶対に違って、いつもと変わらない素の状態をどこまで撮影できるかだと思います。4月から4年目を迎えますが、まだ出会えていない“オモてなしすぎでウマい店”の日常をこれからも映していきたいです。 ■取材・文/苫とり子