黒板の「書き写し」、教科書に「蛍光マーカー」は意味がない…最新研究でわかった「頭がよくなる科学的な勉強法」
効率よく学習を進めるにはどうすればいいのか。アメリカの医師国家試験にトップ1%の成績で合格した米国内科専門医の安川康介さんは「長時間勉強しても、非効率な勉強を続けていれば成績は上がらない。黒板や参考書を書き写したり、教科書に蛍光ペンで線を引いても、勉強した気になっているだけの可能性がある」という――。 【写真】安川さん ■「効率の悪い勉強法」は今すぐ見直したほうがいい ――長時間勉強しても成績が伸びない、と悩んでいる人は多いと思います。まずは効果的ではないNG勉強法を教えてください。 効果的ではない勉強法はいくつかあります。まず、教科書や参考書にハイライトや下線を引くことですね。これは多くの学生が行っている一般的な勉強法ですが、実は効果が低いことが研究で明らかになっています。 アメリカの大学生を対象とした研究では、8000語の文章をハイライトするグループ、ハイライトしないグループ、他の人がハイライトしたものを読むグループに分けて実験を行いました。1週間後、10分だけ文章を見直してからテストを行ったところ、どのグループでもテストの点数に差がなかったのです。 さらに、別の研究では、下線を引きながら読むグループのほうが、推論問題の点数が低くなるという結果も報告されています。これは、下線が引いてあるところだけに気が向き、全体の内容を関連づけて理解することが阻害されてしまった可能性があります。 ノートの取り方に関しては、教科書や参考書の内容をただ書き写したり、まとめたりすることも効果が低い勉強法の一つです。アメリカの高校生180人を対象にした研究では、文章をそのまま書き写した生徒は、ただ文章を読んだ学生と変わらない結果でした。 これは、脳で負荷のかかる処理がほとんど行われないためです。
■「書き写す」より「自分の言葉で言い換る」がいい 一方で、自分の言葉でパラフレーズしたり、短く要約したりした生徒のほうが、ただ読んだ学生や書き写した学生よりも高い点数を取りました。 ただし、要約の質には個人差があります。要約するのが上手い人がいる一方で、要約があまり上手くない人もいます。ある研究では、研究に参加した約3分の1以上の大学生は、学習内容についてきちんとした要約ができていませんでした。的確に情報を捉えた質の高い要約をしている学生では、テストの点数がより高かったことが報告されていますが、要約が得意でない人はある程度の訓練が必要です。 また、一夜漬けなど、一度にまとめて勉強しただけでは、長期的な記憶形成に結びつかないことが多くの研究結果で明らかになっています。テストに受かるためだけならいいかもしれませんが、記憶の定着を考えるとこうした間隔をあけずに一度に続けて勉強する「集中学習」では、本質的な学びにはなりません。テスト前に頑張って詰め込んだのに、2週間後にはほとんど忘れてしまっていた、という経験は多くの人にあるのではないでしょうか。 ――多くの人が効果的だと信じている勉強法で、実は効果が低いものはありますか。 はい、実は多くの人が良いと思っている勉強法の中に、効果が低いものがあります。特に意外かもしれないのが、「好みの学習スタイルに合わせる」という方法です。 よく「勉強法は人それぞれ。自分の好きな学習スタイルで勉強するのが一番効果的だ」と言われることがありますよね。例えば、視覚情報が好きな人は図やグラフや映像などの視覚的な情報を中心に学習し、耳から聞くのが好きな人は音声教材などの聴覚の情報を中心とした学習を行うというものです。 ■「自分にあった勉強法」はあてにならない しかし、こうした学習者の好みの学習スタイルを判別し、学習方法を変えたほうが効率的なのかについては、今のところ科学的根拠はあまりないのです。 著名な認知心理学者たちが学習スタイルの効果についてまとめた論文では、学習者の学習スタイルを判別し、それに合わせた学習をしたほうが良いとする科学的な根拠は現時点では不十分であり、いくつかの研究では、それを裏付けない結果が出ていることが報告されています。 例えば、解剖学のコースを履修する大学生426人を対象とした研究では、自分の学習スタイルと合う勉強法を行った学生の成績は、自分の学習スタイルとは異なる勉強法を行った学生と比べて高くなかったことがわかっています。 むしろ、あまりに「自分にはこの勉強法が合っている」と囚われてしまうと、本当に効果的な勉強ができない可能性があります。