村上春樹「英語の成績は悪かったんです。なんで悪かったんだろうと思うけど」…柴田元幸「やっぱり、文法とかが苦手だったからですか」
小説家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。1月28日(日)の放送は、先月、早稲田大学国際文学館(通称:村上春樹ライブラリー)内のスタジオで実施された公開収録イベント「村上RADIO公開収録~ポップミュージックで英語のお勉強~@The Haruki Murakami Library」の模様をオンエア。 村上DJと40年以上交流があり、一緒に翻訳の作業もしてきたという米文学者で翻訳家の柴田元幸さんを迎えて、青春時代に出会ったポップソングを交互に紹介しながら、英語の歌詞やタイトルについて語り合いました。 この記事では、柴田さんが選曲したギルバート・オサリバン「アローン・アゲイン」、村上さんが選曲したビートルズの「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」について語ったパートの内容をお届けします。
◆Gilbert O'Sullivan「Alone Again (Naturally) 」
村上:次は柴田さんの選曲でGilbert O'Sullivanの「Alone Again(Naturally)」。 柴田:これはリアルタイムで流行ったのでよく覚えている歌です。1971年だから17歳、僕が高校2年生くらいですかね。これ聴いて、「時代が変わったな」と高校生なりに思いました。やっぱり、その前の1969年、70年あたりまでは、とにかく「Together」という言葉をやたらと聞いたんですよね。ビートルズの「Come Together」とか「All Together Now」とか。「Get Together」という曲も1969年にすごく流行ったりしました。ストーンズの「We Love You」など、「我々」とか「一緒に」という言葉が歌のなかでキーワードだったんです。それは60年代の熱い時代と当然つながっていたと思います。 村上:共闘するという感じですよね……。 柴田:そうなんです。それがさあーっと冷めていきますよね。1971年に「Alone Again(Naturally)」が出ます。まったく自然にひとりになってしまった、という歌です。そのころは細かいことまでわからなかったですけど、結婚式をすっぽかされた男が塔に上って、そこから身を投げようと思う、そのあとに父親が死んだときのことを考える、そのあとにリフレインで「Alone Again(Naturally)」となる。これを聴いたときに、新しいというか、とにかく時代が変わったんだなと思いました。 村上:カウンターカルチャーとかフラワームーブメントとか、そういうのが終わっちゃったあとの世界の歌ですね。 柴田:もちろん、もう少し人と人とが結びつく歌もあるんだけど、例えばキャロル・キングが作った「You've Got a Friend」とかね。ああいうのも「君にはひとり友達がいる、それが僕だよ」みたいな感じで、「我々」の規模が一気に小さくなったというか、(時代が)歌に如実に表れた感じがします。 村上:この“Naturally”というのが効いていますよね。 柴田:そうですね、これ、本当に訳しようがないんだけど。なんか、無理もなんにもしないで、生きていると自然にこうなっちゃう、その有り様がAlone Again。 村上:ある種の悲しみみたいなものがあります。 柴田:そうですね。 村上:これは日本語に訳すのが難しいですよね。 柴田:難しいです……。だから日本語のタイトルは「アローン・アゲイン」で終わっていますけど、これは無理ないかなと。 村上:そして、この歌詞が結構長い。 柴田:長いし、歌詞も複雑だし、コード進行も複雑です。このあとギルバート・オサリバンってそんな複雑な歌を作らないんだけど、この1曲だけ突出していますね。 村上:このころは、もう高校生? 柴田:高校生ですね。 村上:歌詞とかは研究しましたか? 柴田:いやぁ、歌詞も一種の音だと思っていたから、ときどきはさっきのアニマルズの歌詞みたいに考えることはありますが、たいていはそこで意味を考えないで、僕も村上さんみたいに歌詞を書いて覚えたりしましたけど、音だけ覚えました。なんか、微分も積分も理屈はわからないけど、数学の問題解くのは好きだった、というのと同じ感じで。 村上:あ、そうなんだ。翻訳家っていうのは歌詞とかみんな分析するのかなと思って。 柴田:しないです。それに僕、英語耳が悪いんですよ。いまだに英語の歌を聴いてもあんまり意味がわからないんです。聞こうともしないし。普通に英語をしゃべるのも、いまだに苦手なんですけど。 村上:僕も苦手です(笑)。