「そんなわけないやろ」と思っても、人生は予想外のミルフィーユ。5年ぶりの海外渡航はまさかのペルー【坂口涼太郎エッセイ】
日常にこそきらめきを見出す。俳優・坂口涼太郎さんが、日々のあれこれを綴るエッセイ連載です。今回のエッセイは、「オールバーイマーイセーールフッ!〈前半〉」です。海外ロケで訪れた初めてのペルー裏話を公開。 【写真】「どうやらあいつにはご利益があるようだ」坂口涼太郎、ペルーの広場で人が集まり過ぎてパニックに お涼、ちゃ舞台を飛び出してペルーに行って参りました。 グルメ番組のロケを3日間するために日本からロサンゼルスで乗り継いで、トランジットも含めたら合計24時間の移動。往復で48時間。すなわち、みっちりみちみち丸2日移動していたわけで、3秒の出演シーンのためにロケバス往復6時間の移動とはまた次元の違う、破格のらめ活が必要なところやけど、5年ぶりの海外渡航というわくわく意気揚々さも作用して、俺の丸2日なんて平気でくれてやるよてやんでい、という気持ちで飛行機に跨る勢いで飛び立ちました。 10時間後、トランジットのために到着したロサンゼルス空港で心と体が乖離した状態でアカデミー賞の小さなオスカー像を見つけたので反射的に金にものを言わせて受賞。今は自宅の祭壇に祀っているみうらじゅんさんからいただいたツッコミ如来のとなりに並べて、そんなわけないやろ、とツッコんでいただく形になっているけれど、いつか本物のオスカー像がそのとなりに並ぶことになるかもしれなくもないかもとうっすら思うのは私の人生が予想外のミルフィーユやったから。
これまで物事が自分の予想通りに進んだためしがないし、常にドッキリかなと思うような予想外のパイ生地が重ねられて、いつの間にか500度のあつあつのオーブンに放り込まれてサクッ。いまこうやってエッセイを書いていることも、テレビやスクリーンの中でお芝居していることも、ペルーに行くことも、そのパイ生地の中の一層で、私=ミルフィーユは過去に重ねられた予想外を一層ずつぺりぺりさくさく剥がしながら、今このちゃぶおどを書いているのかもしれないね。
「あなたはとてもプロフェッショナルです」に、あいたたた!
ペルーでのスリーデイズはとにかくペルー料理を食べるのが私の仕事。大正漢方胃腸薬をチェイサーにして食べる食べる食べる。ペルーの方々にお話を聞いて、街を散策して、たまに世界遺産で踊ってみれば様子のおかしいアジア人がいると取り囲まれ、誰かわからへんけどとりあえず写真撮っとこかと人が殺到。私と! 次は私と! その次はどうか私と! という懇願の絶叫に応えてばしゃばしゃと写真を撮っていたら、いつの間にか「どうやらあいつにはご利益があるみたいだ」との見解に至ったようで、赤子とか抱かされ始め、地でディズニーシーの雰囲気を醸し出す美しい世界遺産アルマス広場でパニックを巻き起こし、「守り甲斐なくてすみません。ホイットニーでもないのに」と申し訳ない気持ちでボディーガードのエドさんに守っていただき、全然ロマンティックではないエンダーを奏でながら退避したりしていました。 エドさんは元々ペルーの警察で大将という役職に就いていらっしゃった方で、たぶん部下が何百人もいたようなものすごく威厳のあるお立場だったと思うのだけれど、ちょっとでも何か私が困ったり、何かを探すような素振りを見せると「大丈夫ですか? 何か必要ですか?」と必ず気づいてくれ、お水を持ってきてくれたり、ゴミを預かって捨ててくれたり、必要なものを瞬間移動ができるとしか考えられないような速さで買ってきてくれたり、ついにはお買い物の値引きの交渉までしてくれて、気がつけば「もはやこれはカツアゲの域なのでは?」と思うほどの割引がされていたりして、今までホスピタリティーにおいてのナンバーワン、クイーンオブホスピタリティーは私のおばあちゃんなのだけれど、正直私がおばあちゃん以外にこの世界で出会った人の中でトップオブホスピタリティーの持ち主だったエドさんは私の中でキングオブホスピタリティーを受賞。「お・も・て・な・し」なんてエドさんの前では太刀打ちできないほど親切ですてきな方だった。 そんなエドさんと砂漠で二人きりになったとき。エドさんがスマホに向かってスペイン語を話しているなと思ったら、ふとスマホの画面を私に見せてきて、何かと思って文字を見たらそこにはGoogleで翻訳された日本語で「あなたはとてもプロフェッショナルです」と書いていて、それを見た瞬間「Tú también(あなたもですよ)! ていうかあなたがですよ! エドさんこそMuchasプロフェッショナルよ! Bravoよ! むっちゃ gracias!」と砂漠の真ん中で絶叫した声はエドさん以外どこにもぶつかることなく風に溶けて消えていきました。 小説風に詩的に書いている場合ではなくて、私はその言葉を見たときに、あいたたた! と急所を突かれていたたまれない気持ちになり、自分が恥ずかしくて砂漠の砂になってしまいたかったほど、ここ数日の自分のプロフェッショナルじゃなさに辟易していた。 〈後半に続く……〉 文・スタイリング/坂口涼太郎 撮影/田上浩一 ヘア&メイク/齊藤琴絵 協力/ヒオカ 構成/坂口彩
坂口 涼太郎