低予算予定が片岡千恵蔵の申し出で大物そろう 映画「十三人の刺客」 近眼アラカンの振り回す刀、斬られ役は本気で避ける
【奇数が当たる!? 集団時代劇の世界】 〝奇数時代劇〟で傑作として知られるのが、映画「十三人の刺客」(1963年、工藤栄一監督)だ。 弘化元年、明石藩江戸家老が、藩主・松平斉韶(菅貫太郎)の悪行を訴え、老中土井大炊頭(丹波哲郎)の門前で切腹する。悪名高い斉韶は将軍の弟で処罰できない。土井はお目付役・島田新左衛門(片岡千恵蔵)に斉韶の暗殺を命じる。新左衛門は協力者を集め、明石藩の参勤交代の行列をとりでのごとく改造した落合宿に追い込むという作戦をたてた。しかし、斉韶側には、すご腕の用人・鬼頭半兵衛(内田良平)がいた。 本作は逸話が多い。そもそも企画は、映画が斜陽の当時、ある作品のため大規模な宿場セットを作ったが、1本の映画予算ではとてもペイできず、最低でも3本撮る必要に迫られて始まったのだ。脚本の池上金男(池宮彰一郎)が集団劇にしたのは、カラー作品にもできない低予算でスターの出演は望めず、数で勝負しようとしたからだったという。ところが13人のキャラクター、展開の面白さが撮影所内でウワサとなり、大スターの片岡千恵蔵が新左衛門役をと申し出た。かくして生き方を迷う若侍に里見浩太朗、個性的な剣豪に西村晃、温厚な老武士に嵐寛寿郎ら味のある顔ぶれがそろった。 宿場の砂ぼこり、馬を包む朝もやなどモノクロの陰影を存分に生かし、狭い宿場で手加減なしで繰り広げられる死にもの狂いの戦いを演出した工藤監督の手腕がさえわたる。ジュラルミン刀も使うリアルな戦いぶりは迫力だが、アラカンは近眼で相手が見えず、刀が当たった手応えで芝居をとめていたため、立ち会った斬られ役はみんな本気で必死に逃げていたという。 決死の戦いのあとに何が残るのか。ラストシーンには出征し、壮絶な戦争体験をした脚本家の思いも投影されている。興行的には大成功とはいかなかったが、映画ファンの評価は高く、90年には仲代達矢主演でドラマ化。映画では2010年、役所広司の新左衛門が「斬って斬って斬りまくれ!」と叫ぶ三池崇史監督版が公開。さらに12年には高橋克典主演で舞台化、20年には中村芝翫主演でドラマ化されている。 (時代劇研究家・ペリー荻野) ■十三人の刺客 1963年12月7日公開。封切り当時の同時上映作品は梅宮辰夫・千葉真一主演の「わが恐喝の人生」(佐伯清監督)。