そもそも「主体性」って何? 脳科学の視点から考える、社員の「主体性」の育み方
コロナ禍に代表されるように不確実性が高く、予測困難な時代において、企業が求める人材が「教育・管理しやすい人材」から「自ら考え、自ら動ける主体的な人材」へと変化しています。 活躍する人材の要件の一つに挙げられることが多い「主体性」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。また、社員の主体性を引き出したり、組織の中で主体性を持つ人材を増やしたりすることは可能なのでしょうか。 人の主体性を支える脳機能について研究している、玉川大学 脳科学研究所教授の松元健二さんにお話をうかがいました。
脳科学から見た「主体性」とは
――人の主体性を支える脳機能について研究されている松元先生は、「主体性」をどのように定義されていますか。 さまざまな説がありますが、私は「自らの判断と意志に基づいて対象に働きかけ、目的を実現し、さらにその結果についての責任を負おうとする態度」と定義づけています。 まずは、自分が思うように外界を変えようと、働きかける。その態度が主体性の起点になります。そのとき、どんなふうに変えたいかが大事です。 目の前にリンゴとオレンジがあったとしたら、どちらに手を伸ばすか。意思決定の研究では「価値の表現」という言い方をしますが、リンゴとオレンジそれぞれに、自分にとっての価値を見出し、価値が高いと判断したほうに手を伸ばすでしょう。 リンゴとオレンジであれば、単純に選んで食べるだけですが、料理をする場合は、いろいろな材料を組み合わせて、自分が望むような結果に近づけていくというプロセスがあります。 また、主体性を考える際に重要なのは、「人は価値そのものを変えられる」ということです。人は自由に選ぶことができ、一度選んだ後も考え直すことができる。あるいは自分で価値そのものを変えて、選択肢以外の中から新たに選ぶこともできます。 たとえば学生が就職活動を始めたとき、最初はぼんやりと「こういう業種がいいな」と思うかもしれません。ただ、実際に業界研究をしたり、面接を受けたりするうちに考え方が変わっていく。もしくは最初は人気企業のランキングや、他人の価値基準に影響されて選択していたとしても、「本当にそれでいいのかな」と考え直す。自分で選択して、その結果について責任を負うことが主体性だと考えています。 ちなみに、人が選択をする際に判断基準としている「価値」には、さまざまな種類があります。お金だったり、娯楽だったり、安心だったり。たいていは「良い生活がしたい」など、今自分が生きている世界の中で良い思いをすることが目的になるのですが、場合によっては「自分が死んだ後の世界」に価値を見出す人もいます。 「自分が死んだ後の社会を良くしたい」などと自分の生存を越えるような価値観を持つのは、人間だけです。動物は、死後に価値を見出せません。自分の生命が果てた後に価値を見出せるのは人間ならではです。