與真司郎さん、カミングアウトのその先へ「自分を許せるようになった」
「これは仕方がないことだ」と思って生きてきた
――異性愛が前提とされがちな日本で活動する中で、本来の自分とは違うイメージや役割を求められることもあったのではないかと思います。そんなとき、ご自身の心とどうやって折り合いをつけてきたのでしょうか。 與さん: 自分のセクシュアリティを隠すことが普通だったというか、異性愛者のように生きていくことが当たり前になっちゃっていたから、インタビューで「どういう女性が好きですか?」とか聞かれても、落ち込む感じはまったくなかったんですよね。 ――それは本当に平気だったというよりも、落ち込まないように心のスイッチをオフにするような感覚ですか? 與さん: そうですね、脳が勝手に答えを用意している感じ。「これは仕方がないことだ」と思って生きてきたので。 ――ご自身のセクシュアリティについてお話しされた2023年7月のファンミーティングでは、「自分らしく表現しながらやっていきたい」という言葉もありました。アーティストとしての表現や意識は、どんなふうに変わりましたか。 與さん: 今までよりもっと自分自身を作品に投影できるようになっているかもしれません。歌詞をつくるときも「こういうことを歌ってみたい」「ちょっと強い言葉だけど、これは入れたい」って、ちゃんと自己表現するように意識しています。自分のまんまで、何も隠さずに言いたいことを言えるので、今はプロデューサーたちと一緒につくっていくプロセスがすごく楽しいです。 歌い方も自信を持って歌えるようになったというか、「もっとこうやって歌ってみよう」とか「こんなふうに表現してみよう」とか、「あ、こういう声も出せるんだ俺」って、チャレンジしながら幅が広がっている感じです。
最期のときに心の底から泣いてもらえる人間になりたい
――カミングアウトまでの長い葛藤も含めて、さまざまな経験を経た今、「與真司郎」という個人として目指したい世界はありますか。 與さん: 僕は、自分が死んだときに、みんなが心の底から泣いてくれるような人間になりたいと思っています。それぐらいの関係性をみんなと築いて、優しく、ハッピーに生きていきたい。ただ、カミングアウトしてから2~3カ月は、あんまりメンタルの状態がよくなくて、「本当に伝えたいこと」がわからなくなった時期でもありました。 今までは、ライブやアルバムの発売に追われながら仕事をしていたけれど、今はプライベートも仕事もちょうどいいバランスでやらせてもらっているので本当にありがたいです。 心のバランスが取れるぐらいプライベートな時間を持てる活動ペースでもファンの方が応援してくれる環境があるのは、ファンの方はもちろん、スタッフさんや友達、家族など、まわりの人たちのおかげ。だから仕事のときは100%頑張ろうって思えるし、プライベートな時間に「あ、これやりたい!」ってクリエイティブのスイッチが入ることもありますね。 (インタビュー後編に続く) 写真/松岡一哲 スタイリング/SUGI(FINEST) アシスタントスタイリスト/Shiori Nagayama(FINEST)、 Sayaka Suzuki(FINEST) ヘアメイク/Maki Sato 取材・文/国分美由紀 構成/渋谷香菜子