「命」の授業が注目 ゴルゴ松本を言葉で導いた石橋貴明
それからまた1~2年経った頃、お正月の特番に出る機会があって、浅草の演芸場でネタをするという企画だったんです。「ネプチューン」とか人気者がたくさん出る中、お客さんとの相性が良かったのか、その日は僕らがすごくウケたんです。また、これもめぐり合わせというか、ご縁というか、その番組をタカさんが見てくれていて、後日「とにかく面白かった!!一番面白かった!!」と絶賛してくださったんです。これがまた、とんでもない自信になりました。 というのも、ちょっと入り組んだ話になりますが、実はその時期というのは、少し前にネタの作り方をガラッと変えたタイミングだったんです。それまでは、元々2人とも役者をやっていたこともあって、しっかりと役柄に入っていくようなコントをやってたんですけど、ちょうどその頃に漫才コントに変えたんです。基本的には漫才スタイルで、2人の会話でネタを進めていって、その中にポイント、ポイントでコントが入っているという流れにしたんです。今までのコントだったら、最初から最後まで芝居のように忠実にその役を演じていたので素の自分を出すということがなかった。でも、漫才コントだったら、会話部分でゴルゴ松本という自分のキャラクターも出しながらコントをやることになる。 手さぐり、試行錯誤の連続の中、これまでのコントより格段に自分というものを出したネタに対して、タカさんからその言葉をいただいた。単にネタを誉めてもらったうれしさだけでなく「これでいいんだ!!オレでいいんだ!!」というもっと大きな自信をいただいたんですよね。これは、大きなことでした。そして、それからほどなくして、僕らが世間の皆様に名前を知ってもらうきっかけとなった“命”のギャグができるんです。 今回、手前味噌ながら、言葉について書いた本も出させてもらいましたけど、まず自分自身が、本当に良い言葉に出会わせてもらっているとつくづく思います。とりわけ、石橋貴明という人を通じて。 考えてみたんです。仮に、1秒間に1人ずつ人に会ったとする。単純に1分間で60人ですよね。1時間で3600人。1日で8万6400人。これを1年間続けたとして3153万6000人。それを赤ちゃんの時から死ぬまで不眠不休で100年間続けたとして、およそ31億5000万人。要は、それでも世界中の人には会えないんです。ということは、どういうことなのか。みんな、会うべき人に会ってるんだろうなと。会う人にはすべて意味がある。中でも、僕にとっては、タカさんに会った意味はとても大きなものでした。今、日常的に食事をご一緒させてもらったり、ゴルフに行かせてもらうようになっても、言葉を通じて、新たな後押しをたくさんいただいています。 …スミマセン、長々と話をさせてもらいましたけど、あんまり、おもしろポイントがなかったですかね…(笑)。真面目すぎましたかね。あの、いや、これは番組でもそうなんですけど、本当はもっとタカさんをイジったりする方が、芸人にとっての正解で、本当はご本人も喜ぶと思うんです。ただ、野球の先輩後輩という意識が強いのか、やっぱりあこがれの人だからなのか、なかなかそれができないんですよね…。今回も、完全にそっちのモードになってますもんね。 ま、でもね…、それはそれでいいのかなと…。イジる後輩は他にもいるだろうし、それは誰かに任せておいて、自分はこれからもこの関係でタカさんとご一緒していければなと思っています。 ■ゴルゴ松本 1967年4月17日生まれ。埼玉県花園町(現・深谷市)出身。本名・松本政彦。ワタナベエンターテインメント所属。埼玉県立熊谷商業高校時代は野球部に所属し、第57回選抜高等学校野球大会にも出場。俳優活動を経て、94年にレッド吉田とお笑いコンビ「TIM」を結成。“命”“炎”など体を使って文字を表現するギャグで一躍人気者となる。TOKYOMX「バラいろダンディ」、テレビ朝日系「夢対決!とんねるずのスポーツ王は俺だ!スペシャル」などに出演。十数年前から後輩芸人に向けて行っていた文字に込められたメッセージを語る講義を、2011年からは少年院などでも開くようになり「命の授業」として話題を呼ぶ。今年4月にはその活動をまとめた著書「あっ!命の授業」を出版した。 ■中西正男(なかにし・まさお) 1974年大阪府枚方市生まれ。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。大阪報道部で芸能担当記者となり、演芸、宝塚歌劇団などを取材。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、芸能ジャーナリストに転身。現在、関西の人気番組「おはよう朝日です」に出演中。