【ラグビー】松永拓朗、初の日本代表入り。『超速ラグビー』を「頭で考えずに身体で」できるように。
配慮した。 松永拓朗は、自身が初めてラグビー日本代表に入ったのを公式リリースのおよそ「1週間前」に知った。今年10月上旬のことだ。 「発表までは、黙っていた感じです。誰にも(秘密にするようにとは)言われてはいないのですが」 9月まであった代表活動には、藤原忍が参加していた。松永にとっては出身の天理大で4年間、司令塔団を組んでいた間柄。いまはお互いに別々のチームにいるとはいえ、気心が知れている。 互いに代表選出について連絡を取り合ってもよさそうだが、そうはならなかった。 松永が、配慮した。 「忍には早く連絡したかったんですけど、何かの手違いで僕が入っていない可能性も、忍が怪我で入っていない可能性もあるし」 13日からナショナルチームに帯同。16日に宮崎キャンプが本格化すると、改めて「同級生がいるのは心強い」と感じた。慣れない環境に身を置くいま、旧友の存在に助けられる。 「僕は日本代表の帯同が初めてなので、わからないこといっぱいあるんですよね。スケジュール、チーム練習の動き方、服装――ウェイトトレーニングとグラウンドでは違うんです――などの決まり…。同級生がいれば何でも聞ける。『このことは誰に相談しようかな』と悩む必要がなく、助かっています」 実際に触れた日本代表には、どんな印象を抱いたか。目を輝かせて答える。 「向上心が高い。選手からは練習でも、オフフィールドでも、チームをひとつにしようという意思が伝わってきます。練習の時に一体感があるのはもちろん、ご飯の時であったり、ミーティングの時であったりでも関係性を深めよう…と」 いまは、エディー・ジョーンズが唱える『超速ラグビー』の詳細の身体化を急ぐ。 「シェイプ(陣形)の動き、チームが求めている『超速』とはどういうことなのか、ディフェンスでどうやってプレッシャーかけるのか…こういう詳細のところをだんだん理解できている。あとは、もっと頭で考えずに身体で行動できるところまでできたらなと思っています。それには言葉(共通言語)を覚えて、グラウンドでやって(実践して)いくしかないです」 特に、主将で正司令塔候補の立川理道には感銘を受ける。天理大の9学年先輩で、学生時代にキックを教わったこともある母校のレジェンドについてこう話す。 「憧れの存在と一緒にできることは感慨深いです。学ぶことが多い。いっぱい盗めたらいいなと」 現在26歳。最近の国内シーンでもっとも台頭したひとりだ。 国内リーグワン1部の東芝ブレイブルーパス東京にあって、SO兼FBとして淡々とラインブレイクを決める。身長172センチ、体重82キロと小柄も、大きな局面を作り出せる。 5月26日、東京・国立競技場。埼玉パナソニックワイルドナイツとのプレーオフ決勝では、後半34分に味方の決勝トライをおぜん立てした。敵陣中盤で右タッチライン際の隙間に球を呼び込み、快走したのだ。 ノーサイド。24-20。クラブにとって、旧トップリーグ時代から通算して14シーズンぶりの日本一を達成した。ブレイブルーパスの連帯感に惹かれて2021年に入部の松永は、こう述懐した。 「泣いているベテランの人がいて、そこにチーム愛を感じました。試合に出ている、出ていないに関係なく、皆で喜べたことが嬉しく思いましたね」 この秋は、ブレイブルーパスのプレシーズン主将を務める予定だった。主将のリーチマイケルが療養中で、副将の原田衛が6月からずっとジャパンにいた。12月からの来年度への準備にフルで関われるうち、次世代のリーダー候補だった松永に白羽の矢が立ったのだ。 今度の代表招集を受け、その計画は書き換えられそうだ。本人は笑う。 「トディ(トッド・ブラックアダーヘッドコーチ)に『プレシーズンマッチは、全試合に出ることはないかもしれないけど引っ張っていってくれ』と言われていて、1試合も出ずに…。誰が次の(プレシーズン)主将かも知らされてなくて…」 ジョーンズが約9年ぶりに復職したいまの代表チームは、今年6月に本格始動していた。 その隊列に自身の名がなかった松永だが、「まだチャンスはある」と前向きだった。2027年のワールドカップオーストラリア大会へ、今後のリーグワンでアピールし続けるつもりだった。今回は予定よりも早くチャンスが来た格好だ。 「(ジョーンズには)自分の強みを出して欲しい、それに必要なスキルをどれだけ練習するか…ということを言われています。コミュニケーションに取って周りの選手を動かす。ボールも動かす。プラス、自分もランができたら最高です」 もし最短で初キャップを得るとしたら10月26日。神奈川・日産スタジアムにオールブラックスことニュージーランド代表を迎える。 ふたつのポジションのカバーを期待される新星は、「まず自分を表現したい。(相手が)オールブラックスだから…ということはあまり考えず、自分のパフォーマンスができたら」と意気込む。 (文:向 風見也)