73歳・岩城滉一「老い」とは「生まれたまんまの自分の歴史」だから悲観的にならない…26年ぶり映画主演
俳優の岩城滉一(73)が公開中の映画「ラストターン 福山健二71歳、二度目の青春」(久万真路監督)で26年ぶりに映画主演を果たした。これまではダンディーな役が多かったが、今作では実年齢に近いおじいちゃん役。「老い」がテーマのストーリーだが、自らは年を重ねることも楽しんでいるという。来年は俳優デビュー50周年。大人の魅力をたたえた渋い男の本音に迫った。(宮路 美穂) 【写真】映画での妻役は宮崎美子 そろって笑顔で舞台あいさつ 細いたばこに火をつけ、煙をくゆらせる姿はまさにダンディーそのもの。インタビュー後に、共通の知人の名前を出すと、「そうか」と力強く抱きしめられた。瞳の向こうの相手が重鎮であっても、単なる一記者であっても、同じようにフラットに振る舞う。 「俺はあんまり有名だからどうだこうだって思わないタイプなんで。(高倉)健さんが目の前にいても、口は悪かったけど、でもあいさつはちゃんとする。あいさつができないのは非常識だけど、口の悪いのは俺のパーソナル(個性)。俺は口が悪いけど、非常識ではないんだよ」。岩城の元に自然と人が集まる理由がここにある。 映画「ラストターン」で演じているのは、認知症の愛妻をみとり、定年後の余生をひとり静かに暮らす主人公。人生の終わりが近づいてきていることを意識し、残りの時間に目的を見いだすため水泳教室に通い、次なる青春に向き合おうとする。映画主演は26年ぶりだが「それってそんなにすごいのかな。面白い映画が何もなかったからやらなかったっていうだけだから。脇で3本ぐらいやったほうがギャラもいいじゃん」と自然体だ。 それでも、26年の時を超え今作のオファーを引き受けたのは、自身の境遇とリンクする部分もあったからだ。「これから行く道っていうかね…。ちょっと前は(仲間内で)親がボケてきたとか、脳梗塞(こうそく)でぶっ倒れたとかそういう話をしてきたけど、最近は僕らの年代の人間がそうなってきて、自分の話になってきた。今の自分の心境のままできる仕事っていうか。たまたまうちは家庭もすごく仲良しでやってられているけど、ここからの人生がすごく大事なんじゃないの?と思ったんだよね」 老いについて悲観的になったことはない。「生まれたまんまの自分の歴史でしょう? それをちょっと若く見せたいからって、針金入れたりとかシワを隠したりとかするけど、自然のまんまがいいんだよ。うちの女房だって肌もお尻もすごいけど、それがかわいい。だって、アルバム見たときに、(若作りで)何も変わってない人生だったらすごく後悔すると思う」。シワのひとつひとつや、肌のシミにだってその人の人生が宿る。 愛妻でモデルの結城アンナ(68)への思いも尽きることはない。「俺は女房を代えるのが怖い。昔の自分を知らない女がそばにいて、(過去に)一緒にうまいものを食ったこととか楽しんだことを2人で話し合えないっていうのは我慢できないよ。自分がどういうふうに生きてきたかっていう足跡は、女房が一番見ててくれてるわけじゃない」。今でも一日3回は「愛してる」と伝えるという。 デビュー前はバイクチーム「クールス」のメンバー。スカウトで芸能界入りし、来年は映画デビューからちょうど半世紀となる。「よくしてくれる人たちもいて、幸せだなと思いますよ」。特段、芝居に思い入れがあったわけではない。「できなくてクヨクヨするとかも全然なかった。だって監督は俺がいいって選んで、OK出てるんだから。下手もうまいも関係ない。性格だと思うんだけど、媚(こ)び売ってまで仕事しようとも思わないし、やめろと言われればいつやめてもいいし」と、肩の力を抜いた歩みの積み重ねが、いまの岩城を形作ってきた。 知人に勧められ3年前から始めたYouTubeでは趣味のバイクレースやアウトドアキャンプ、射撃などを楽しむ姿を紹介。軽トラックを改造した動画は約370万回再生を記録するなど、理想のオヤジの姿として話題を呼んでいる。「俺はトラックが好きで、ベンツがいいとか、フェラーリがいいとかそういうのには興味がない。実務というか、乗って運転することに意味があるので」。先日は巨大トレーラートラックを自ら運転し、能登半島地震の被災地へコンテナハウスを寄付した。 「いつまでもそういう活動的なオヤジがいたら、それはそれで面白いんじゃない?」。通常、こういった人生観に迫るタイプのインタビューコーナーでは、今後の目標など未来について尋ねることが多いが、その問いは岩城にはふさわしくないような気がした。「うちの女房がいつも言うの。『ダディは危なくないと楽しくない人だから』って。でも危険な遊びっていうのはもうほぼないもんね。射撃場もバイクレースもずっとやってるし、山も行けば海で船も出せる。飛行機のライセンスもまだあるから空も飛べるし。結局は、銀座が一番危険だよ」。そう言って岩城は笑った。岩城滉一73歳、いまだ青春を生きている。 ◆岩城 滉一(いわき・こういち)1951年3月21日、東京都生まれ。73歳。東映にスカウトされ、75年の映画「新幹線大爆破」でデビューし、同年の映画「爆発!暴走族」で初主演。81年から出演したドラマ「北の国から」シリーズでは黒板五郎(田中邦衛さん)と家族ぐるみの付き合いをする「草太にいちゃん」こと北村草太役で人気を博す。現在は俳優業と両立しバイクチーム「51GARAGE」の代表・監督も務める。
報知新聞社