サルの動きをGPS使って「見える化」したら被害激減 「今は夫婦で泊まりに出かけられる」と住民安堵
人里や畑への出没…以前は毎日のように被害が
長野県大町市がサルによる農作物被害対策として2020年度に始めた衛星利用測位システム(GPS)を使った捕獲の仕組みが効果を上げている。サルの群れの動きを把握し、行動を「見える化」したことで、効果的な場所へのおりの設置、住民との情報共有や連携が進み、被害が減少した。以前は住民からの被害情報が毎日のようにあったが、本年度は数件にとどまっている。 【画像】以前のサルの動き。人里に現れる頻度が最近よりも高かった
三つの群れを選び各1匹にGPS付きの首輪を装着
サルによる農業被害が増え、追い払いでは効果が薄いため、市は捕獲主体に切り替えた。そこで、群れの動きを把握しようとサーキットデザイン(安曇野市)が開発した機器「アニマルマップ」を20年度に導入。被害が大きい地区で三つの群れを選び、各群れの1匹にGPS付きの首輪を装着した。
サルの行動軌跡や滞在時間が地図上に示される
午前6時~午後8時の2時間置きに首輪から位置情報が送信され、データを蓄積。サルの行動軌跡や滞在時間の長さが地図上に示され、行動範囲や長く滞在する場所がつかめてきた。住民からの聞き取り情報も合わせることで、時季によってサルが現れやすい場所が予測できるようになった。
スマートフォンで位置情報を見られるように 対策取りやすく
被害地区の住民に依頼した猿害対策協力員が、スマートフォンで位置情報を見られるようにし、ねぐらを確認して翌朝、畑に先回りして追い払いを実施。市は猟友会と協力し、群れがよくいる場所の近くで、事前におとりの餌でサルが寄ってくるか確かめた上で、カメラ付きの遠隔操作できるおりを設置。市職員が監視し、早い時は翌日に捕獲できるようになった。おりに置いた餌は、リンゴ農家が間引いた実や被害地区で取り残された野菜などを提供してもらい活用した。
GPS付き首輪を付けるのに1匹35万円
サルにGPS付き首輪を付けるのに1匹35万円、大型おりの購入は200万円。これら費用は国の補助金で賄なった。他にGPSなどの通信費が年約50万円かかる。
畑で育てていた野菜がサルの食害に遭っていた同市社の下川清志さん(70)は、22年春に猿害対策協力員になり、GPS情報を活用して追い払いをした。被害がなくなり、「猿害が心配で夫婦一緒に出かけられなかったが、今は泊まりで行ける。安心感が違う」と喜ぶ。
態勢を維持できるかが課題
市農林水産課の伝刀章雄さん(52)は「GPSでサルの動きも成果も見えることで、住民と猟友会員、市職員の連携が進んだ。群れの管理を続けないとまた増える。狩猟免許を持つ職員を配属した今の態勢を維持できるかが課題だ」と話した。