「円高になったら、日本株は売りですよね?」“円安の反動”に警戒強まるも…いま本当に恐れるべき「円高よりヤバい大惨事」【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
3. 本当にヤバいのは円高とは真逆のアレ
■昨年来、円安とともに上昇を続けてきた日本株ですが、足元では変調の兆しが見られます。日経平均を米ダウ工業株指数で割った「ND倍率」を見ると、これまで円安の進行につれて日経平均が大きく上昇することで、ND倍率も上昇傾向を続けてきました。しかし、今年4月以降、1986年以来の38年ぶりの円安が加速する過程では、ND倍率は足踏み傾向が続いています。 ■円安が進んでいるにもかかわらず日本株の上昇が鈍いのは、現在の円安が「資本逃避」の性格を帯びつつあるからかもしれません。特に今年1月の新NISAの開始以降、日本の個人投資家による積極的な外国株投資が続いていることもあって、足元では日米の金利差が縮小に向かう中でも円安に拍車がかかっているからです。 <円安、債券安が進む日本、これで株安ならトリプル安に> ■もし、投資リターンを海外に求める「資本逃避」が日本で大規模に起こりつつあるとしたら、非常に厄介な状況になりかねません。というのも、現在日本では円安に加え、長年続いた超金融緩和が終わったことで債券安が進行中です。このため、日本株も下落に転じると、「円安、株安、債券安」のトリプル安になってしまうからです。 ■今年前半の世界の株式市場を振り返ると、多くの国が比較的良好なパフォーマンスを記録する中、ブラジル、メキシコ、バングラディッシュなどで、選挙などその国固有の要因が嫌気されて株価が大きく調整しています。そして、この3ヵ国に共通するのは、「通貨安、株安、債券安」のトリプル安が生じることでリスクオフに拍車がかかり、際立った株価の下落につながっていることです(図表5)。 ■こうした「トリプル安」が日本でも起こると、その影響は大きなものとなる可能性があります。バブル崩壊による日本の株価の大幅な水準訂正が完了して以降、1993年から2024年6月末までの378ヵ月を見ると、日本で「トリプル安」が生じた月は24ヵ月ありました。そして、トリプル安の月の日経平均の平均騰落率は▲3.43%(年率換算▲ 34.18%)となっており、378ヵ月の平均の+0.38%(年率換算+4.67%)を大きく下回る悲惨な数字となっています(図表6)。 ■こうしてみると、昨今のように過度な円安が進む局面で私たちが本当に恐れるべきは、その反動で起こる「円高による株安」ではなく、円安を伴う日本売り、資本逃避による「トリプル安相場」ではないでしょうか。 <まとめに> 「円高なら株安」と気を揉む方が少なくないようです。しかし、こうした心配は、過去の記憶に紐づけられた条件反射のようなものかもしれません。もし、そう遠くない将来に米国で金融緩和が始まることで、「金融相場による米株高」が始まるなら、円高による日本株下落への懸念は杞憂に終わるのではないでしょうか。そして、今、私たちが神経をとがらせなくてはならないのは、「円安、株安、債券安」が同時に進むトリプル安ではないでしょうか。今後、資本逃避に似た動きが強まるようなら、その懸念はさらに高まることとなりそうです。 (2024年7月5日) ※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。 ※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「円高になったら、日本株は売りですよね?」“円安の反動”に警戒強まるも…いま本当に恐れるべき「円高よりヤバい大惨事」【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。 白木 久史 三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフグローバルストラテジスト
白木 久史,三井住友DSアセットマネジメント株式会社
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