トモニHDがトップから現場まで一体で進める、地域密着型金融グループへの道
■ 大阪とのつながりを持った徳島、香川の特性 ――トモニホールディングスは、徳島、香川の2県を中心とする金融グループです。この地域の経済にはどのような特徴があるのでしょうか。 中村 四国の東側に位置する徳島県と香川県の経済は、異なる部分もありますが、両県に共通しているのは、大消費地である大阪に近いという地域特性です。古くから瀬戸内海、淡路島を経由する形で人や物の行き来が多く、違和感なく大阪に出ていくことができました。 大阪の弁天町に、古くから「弁天埠頭(ふとう)」という船着き場があり、水都大阪と四国の通商を支えていました。ここは、四国から多くの人が移り住んでいた地域でもあり、旧徳島銀行、香川銀行とも、昭和40年代から支店を設けていました。以来、この地域では地場銀行のように地域密着のサービスを提供しています。 このつながりをベースにして、大阪との関係を強化してきました。2020年に旧徳島銀行が大阪の地銀であった大正銀行と合併できたのも、こうした長い関係性の素地(そじ)があったからです。 ――徳島、香川の両県は、地銀のマーケットとしてどんな違いがありますか。 中村 徳島は歴史的にみて、大塚製薬、日亜化学工業、ジャストシステムなど、小さな企業が創業し、大きく成長することを繰り返してきました。徳島が阿波と呼ばれていた時代から、「藍商人」が全国を行商して集めた富を生かして、小さな産業を育てる文化があります。 香川は、瀬戸内海に面している立地を生かし、海運に関するビジネスが盛んです。造船は愛媛県を連想されるかもしれませんが、今治造船の日本最大のドックは香川県丸亀市にあります。隠れた地場産業ともいうべきものです。 また、香川県は日本一面積が狭い県ですが、それに反して金融機関の数はかなり多く、銀行間の競争が激しい地域です。北から中国銀行などの金融機関が多くの拠点を置き、メガバンクの出先もそろっています。 迎え撃つ側としては、差別化を図るため、より地域の中小企業に密着して支援を行う必要があると思っています。これは香川だけでなく、徳島地域でも同じです。しっかりと与信を行いながら、ミドルリスクを引き受ける挑戦を続けます。 ――旧大正銀行の地盤がある大阪エリアでも、中小企業がターゲットの中心ですか。 中村 はい。中小ビジネスという点では共通ですが、旧大正銀行は、不動産関連に強いという明確な特徴を持っていました。大阪の宅建ビジネスのおよそ1割が同行取扱いであり、小さいけれどニッチな強みです。宅建業は、何度も登記を書き換える作業が発生し、規模の割に手間がかかるため他行があまり手を出さなかったことで、明確な差別化ができていたと考えています。 旧大正銀行を加えたトモニホールディングスは、中小企業に対してさらに強みを際立たせることができたと思っています。実際に、中小企業等への貸出比率は全国の地銀のトップ10に入ります。 ――重点的に取り組んでいる業界、業種はありますか。 中村 グループ全体として、船舶関連に注力しています。特に外航船で、今後「環境対応船」への需要が期待されており、先行して環境対応船に取り組む企業への支援を拡大しています。2022年度に終了した当社の第4次経営計画では、当初約1500億円だった船舶関連の業種のポートフォリオを、4年間で約1000億円上積みできました。今後さらに増やしていきたいと思います。 また、業種を問わずですが、新しい動きとして、法人に対して始めた「SDGs宣言策定支援コンサルティング」というサービスが非常に好評です。これは、お客さま企業の経営者の方の頭の中にある、SDGsについてのお考えを文書化するサービスなのですが、2022年度までに900件を超える引き合いがありました。 このサービスは、単にヒアリングして文章にまとめるだけでなく、当社にとって大きな副産物があります。お客さまとやりとりをすることで、これから力を入れていこうとしている領域が分かります。例えば太陽光に注力することが分かれば、当社の別のお客さまで関連する事業者をご紹介し、ビジネスマッチングに進めることができます。また、サステナブルファイナンスの実績も着実に伸びており、2023年度は、上期ですでに、前年度通期の7割程度まで伸ばしています。 一方、個人についても、ニーズが多様化しています。四国の北側の玄関口である香川県高松市は約40万の人口を抱えており、個人の金融ニーズも旺盛です。高齢化時代に対応し、老後資金の捻出するためのリバースモーゲージなど、新しいサービスを含めて提案力を強化していきます。 【後編に続く】 トモニHDが徳島大正銀行と香川銀行の「2行体制」を堅持する2つの理由
指田 昌夫