『響け!ユーフォニアム』『わたしの幸せな結婚』『陰陽師』 冬休みに観たいアニメ5選
たくさんのアニメが放送、配信、上映された2023年。そして、同じようにたくさんのアニメが登場してくる2024年。そんな年の変わり目にあたる冬休みのまとまった時間を、完結したアニメや配信中のアニメ、そして次のシリーズが始まるアニメを観る時間にあててみてはいかがだろう。今観ておきたいアニメを5作、挙げてみた。 【写真】『響け!ユーフォニアム3』キービジュアル 100回観ても飽きずにもう100回観たくなる。そんなオープニングアニメを冒頭に掲げて強い印象を残したシリーズが、高松美咲の漫画を原作にした『スキップとローファー』だ。石川県の能登半島先端に近い過疎地で育った岩倉美津未は、官僚になるという目標のために東京にある高偏差値の高校に進学するものの、慣れない都会生活にくじけそうになる。そこに現れたイケメン男子の志摩聡介が助けてくれて、学校でも何かと気にかけてくれたおかげで、次第に自分の居場所を得ていく。 丁寧な作品作りで知られるP.A.WORKSが制作しただけあって、三白眼の美津未も二枚目の志摩もクラスメイトでギャル風の村重結月も、誰もが漫画のままに動く上に豊かな表情を見せて、そこにいるような気にさせられる。そんなキャラたちによって紡がれるストーリーも、前のめりなところがある美津未の頑張る姿に周囲も感化され、まとまっていく展開になっている。孤立しそうになっている人が観れば心がシャキッとするだろう。 そしてオープニングアニメ。須田景凪の楽曲「メロウ」に乗って踊る美津未と志摩の姿や表情はとても楽しげで、観る人の心をワクワクとさせる。アニメ好きならステップの軽やかさやひるがえる美津未のワンピースの裾などを、どれだけの手間をかけて描いているのかが気になるだろう。飛ばされがちなオープニングで引きつけ、本編では高校生活というものの魅力を現役生に改めて感じさせ、受験勉強まっただ中の中学生にも伝える作品。すでに青春から離れた人も、観れば失われかけている自信を取り戻すきっかけを見つけられるだろう。 TVシリーズでは、顎木あくみによる小説が原作の『わたしの幸せな結婚』もおすすめだ。斎森美世は名家の長女として生まれながらも実母とは死別していて、父親は後妻との間に出来た次女をかわいがって美世をないがしろにしていた。義母や義妹からまるで使用人のように扱われていて、挙げ句に婚約者候補として来た者たちをすべて追い出し冷酷無慈悲と言われていた久堂清霞という名の青年のところに嫁がされる。 ほかの婚約者候補たちと同じように追い出されても、帰る家などなく路頭に迷うだけ。そんな苦境にあった美世だったが、清霞の家で絶対服従の態度を崩さなかったことで関心を持たれ、そのまま関係を深めていく。ある種のシンデレラストーリーで、どこか男尊女卑のような雰囲気も漂うが、だからといって女性のアニメ好きから反発を受けなかったのは清霞がとにかくカッコよかったことと、物語が“服従”ではなく“解放”を描くものになっていたことがあるからだろう。 そんなストーリーを、上田麗奈が演じる美世と石川界人が演じる清霞が引っ張っていった先、美世に起こった危機を清霞が異能を発揮して解決する異能バトル的な展開も登場。そして、ふたりがようやくたどり着いた幸せな日々への賛意を集めて、2023年夏クールの人気アニメとなった。原作は続いていてアニメも第2期の制作が決定。美世の特殊な能力を囲い込もうとする勢力との戦いが描かれ、第1期以上のスリリングな展開を楽しめるだろう。 配信では、Netflixにて初のアニメーション化がされた『陰陽師』を挙げたい。原作の夢枕獏による小説は、岡野玲子によって幽玄さが漂う絵で漫画化され、実写では野村萬斎が安倍晴明、伊藤英明が源博雅を演じる映画版が作られた。TVドラマでは、稲垣吾郎、八代目市川染五郎、佐々木蔵之介らが晴明を演じた作品が作られ、それぞれに強い印象を残してきた。 初めてアニメ化された本作は岡野玲子の漫画版を元にしているわけではなく、アニメオリジナルのキャラ設定となっている。ストーリーも、晴明が後に相棒となる博雅と初めて出会ってから、さまざまな事件に関わる中で親交を深めていく流れで、観る人はそんなふたりの関係性の変化を最初から味わっていける。 監督を務めた山本蒼美は、『この男子、宇宙人と戦えます。』などで女性ファンに応えてきたクリエーターだ。金メッシュを入れたような髪の晴明はまるで女性向けコミックの主人公といった面持ちで、博雅との関係もそうしたカテゴリーのファンを誘うものとなっている。ストーリーでも、恋情への未練や才能への嫉妬から鬼になってしまう人々の心情をとらえ、どのように鎮めていくかを描いて何かしらの思いを抱えて生きている人の心を打つ。1話また1話と観ていくうちに離れられなくなって最後まで観てしまい、続きを求めたくなる作品だ。 凛として時雨の楽曲を使ったOPもクールだが、一条戻橋の屋敷に暮らす晴明を登場人物たちが次々に訪ねてくる様子を、ao「kioku」に乗せて淡々と描いたEDも、晴明が人間性を持つようになっていく様を感じさせて心に染みる。 2024年にスタートする新シリーズに向けて、おさらいしておきたい作品としては『響け!ユーフォニアム』を挙げたい。武田綾乃の原作を京都アニメーションが2期にわたってTVアニメ化し、続いて『リズと青い鳥』(2018年)、『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』(2019年)という2本のアニメ映画も公開された。 京都にある北宇治高等学校に入学し、吹奏楽部に入ったユーフォニアム奏者の黄前久美子。新しく赴任してきた顧問の滝昇による言葉こそ優しいものの内実はシビアな練習をくぐりぬけ、奏者として成長しつつ、同級生や先輩との関係も築いていくといった青春部活ストーリーだ。2作のTVシリーズで1年生編を描き、『リズと青い鳥』、『誓いのフィナーレ』で2年生編を描き、4年ぶりの新作として2023年8月に公開された『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』で部長を引き継いだ久美子が、部員たちを導いてアンサンブルコンテストに臨むところまでがアニメ化された。 そしていよいよ3年生編となる『響け!ユーフォニアム3』が2024年4月からNHKで放送となる。原作を読めばどのような話かは分かるが、アニメで知りたいという人は改めて最初のTVシリーズから順に振り返っていくか、総集編的に作られた『劇場版 響け!ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』(2016年)と『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディー~』(2017年)で1年生をおさらいすることをおすすめしたい。2年生編も12月20日に発売された『アンサンブルコンテスト』のBlu-rayや、『リズと青い鳥』、『誓いのフィナーレ』の配信などで確かめておけば、3年生編にもすんなりと入っていけるだろう。この作品と『スキップとローファー』を合わせて観ると、美津未と久美子を共に演じる黒沢ともよの演技力にも感嘆できる。 オリジナル作品もひとつ。『シドニアの騎士』や『BLAME!』といった漫画作品で知られる弐瓶勉(東亜重工)を原作に迎えつつ、漫画と平行してアニメを展開していくメディアミックス作品として作られたアニメが『大雪海のカイナ』だ。天空のはるか高みまでそびえる巨樹の上に暮らす人たちがいる一方で、巨樹のふもとに広がる大雪海の中に顔を出す島々で命脈を保っている人たちがいる世界。過疎化が限界まで進んだ天上にいた数少ない若者のカイナは、下から賢者を探しに来たという少女リリハとともに巨樹の下に降り、襲ってくるリリハの敵対勢力と戦いながら大冒険を繰り広げる。 衰退が進んだ未来のビジョンを見せてくれる設定であり映像が想像力を刺激する。ポリゴン・ピクチュアズが3DCGを使いながらも2Dのアニメに見えるキャラクターのルックが今のデジタルアニメの到達点を感じさせてくれる作品だ。続きを描いた映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』も含めて観て、オリジナルアニメだからこそ感じられる初体験の世界観に浸りたい。
タニグチリウイチ