泡で、船で、AIで...... 海洋プラスチックごみ回収の最新イノベーターたち
「オーシャン・クリーンアップ」 海と河川で、大規模なプラごみ回収
ダイビングをしていた時にたくさんのプラごみを見て「プラごみを回収しなくては」と決心したのは、オランダ生まれのボイヤン・スラット氏だ。氏は2013年、18歳のときに非営利団体のオーシャン・クリーンアップを設立した。氏は2014年国連の環境賞を受賞している。 オーシャン・クリーンアップが研究を重ねて生み出したのは、2種類の装置。TGBBのカーテンのように、河川のプラごみが海に流れる前に回収する装置と、海洋でプラごみを回収する装置だ。「2040年までに、海洋に浮かぶプラごみの90%を除去する」ことを目指し、川や海のプラごみの回収を続けている。4月初めの時点で、全装置で回収したプラごみは940万kg以上に達した。 河川用の装置「インターセプターズ」は、プラごみの汚染がとりわけ激しい世界の1000の河川を清掃しようと開発された。インターセプターズは、河川の状況に合わせ、数種類が考案されている。容量50立方メートルのプラごみを回収できるボート「インターセプター・オリジナル」は主要な装置だ。東アジアを中心に、すでに15叟以上が導入されている。3月末には、61 本の運河が流れ込むチャオプラヤー川の浄化のためにバンコクで初導入されたばかり。タイでは、バンコク市をはじめ天然資源・環境省なども回収プロジェクトのパートナーになっている。 船上の太陽光パネルによる発電を電源にした「インターセプター・オリジナル」は、コンテナボックスを積んでいる。ボートにつないだ長いフェンスによって浮遊しているプラごみをボートへと誘導する。流れてきたごみはベルトコンベアーでボート内に引き上げられ、自動でコンテナボックスへと入れられる。ほぼ満杯になると、コンテナボックスを川岸へと運ぶ担当者へメッセージが送信されるという。ごみは処理施設へ運ばれ、コンテナボックスはボートに戻される。 ほかには、小さい河口でU 字型に囲った浮遊フェンスでごみをためる仕組み「インターセプター・バリア」、川の上流と下流に1つずつ浮遊フェンスを設置し、上流側で主なごみをせき止め、下流側で残りのごみをキャッチする仕組み「インターセプター・バリケード」などもある。フェンス内にたまったごみは一挙に回収できる。 一方、海洋用の装置は1号機と2号機の実証実験を経て、昨夏、3号機「システム03」が稼働を開始した。船2隻でフェンスを引っ張りながら海のプラごみを回収する。設置場所は、世界最大のごみ集積地帯の「太平洋ごみベルト」だ。 海洋では、1.5㎝以上のプラごみを捕捉する。ほとんどのごみは水面から深さ2m内にあるというが、第3号は水深4mまでをカバーする。最大効率でサッカー場1面ほどを 5 秒で清掃できる。この装置は海洋生物への配慮の点でも優れている。フェンスに付いた回収網には出口があり、海洋生物が網の中で発見されると逃げられるようになっている。 <「クリーン・ハブ」 プラごみ回収・処理をデジタル化> オーシャン・クリーンアップのように、海に流入するプラごみが集中している地域でのプラごみ回収は効率的だ。ベルリンのクリーン・ハブは、プラごみ汚染がひどい東南アジアを中心に事業を展開している。同社は、プラごみ回収のプロセスをデジタル化した。作業員たちが、プラごみを収集し、種類ごとに分け、安全に処理する(リサイクルしたり、セメント製造などの燃料として使う。それらが無理なら埋め立てる)各段階で、同社のアプリに写真をアップロードする。AIがそれらを分析し、プラごみを確実に処理できる。 同社設立(2020年)のきっかけは、サーフィンやスキーなどが趣味で数十カ国を旅した男性3人がプラごみ汚染を目の当たりにしたこと。3人は、東南アジアではごみ処理のインフラ不足により、家庭から回収されたごみがそのまま農地に捨てられて焼却されたり、家庭単位で燃やすことが頻繁に行われていると知った。 このため、同社は川でプラごみを捕捉するプロジェクトも行いつつ、プラごみ(ガラスや段ボール、アルミニウムなども)を家庭から集めて処理することに焦点を置いている。昨年初めの時点で、回収したごみは8000トンを超えたという。 現在、世界の300以上の企業が同社のクレジットを購入しており、プラスチックオフセット(プラスチック消費量を相殺)を行っている。 すでに海や川に流れているプラごみの多くを回収するには、途方もない年月を要する。とはいえ、回収活動はいま進めなくてはならない。そして、どこに住んでいても「安易にごみを捨ててはいけない」という意識が浸透することを願って止まない。