国内メーカー唯一のVHSデッキが生産終了 やむなき理由と再開の可能性
国内唯一のVHSデッキメーカーだった船井電機が、7月いっぱいで同デッキの生産を終了する。思い出の映像をVHSテープで保管する人にとってはショックかもしれないが、いまや映像の再生・録画の役目は、ブルーレイディスクやハードディスクが主流となっている。時代遅れだから、売れないから生産終了なのか? 船井電機の広報によると、需要がなく採算がとれないという理由ではなく、”やむなき”生産終了になるのだという。同社に生産再開の可能性などを聞いた。
最盛期の1/20販売台数でも利益は確保
船井電機は2015年11月、国内向けのVHSビデオ一体型DVDレコーダーの販売を終えた。現在販売しているのは、中国で生産し、北米向けに出荷しているVHSビデオ一体型DVDレコーダー。15年の売り上げの約9割は、北米市場が占めた。 同社が、再生専用機でVHSデッキ市場に参入したのは1983年。85年には、録画・再生が可能なデッキを発売。最盛期の2000年から02年にかけては年間1500万台を販売したが、DVD、そしてブルーレイディスクの登場および普及を経て、近年は市場が縮小。15年の販売台数は約75万台にまで落ち込んでいた。 生産を終了する理由について、同社広報は「VHSデッキの部品を生産するメーカーが撤退を決め、それらの調達が困難になったため、”やむなく”撤退を決めた」と説明する。 同社が1500万台を販売していた最盛期には、競合メーカーが多く、価格競争も激しかったが、市場縮小に伴ってパナソニックなどのメーカーが1社、また1社と撤退した。現在は価格競争がなく、最盛期の1/20の販売台数であっても、利益を確保できる状態にあったという。
生産再開は本当にないのか?
VHSデッキの生産終了が公表されてから、同社には「もう少し生産を続けてほしい」などと惜しむ声やメールが多く寄せられている。取材する記者も、思い出が詰まったVHSテープを多数保有しており、生産終了を聞いて困惑していると伝えたところ、「ほかの記者さんからも同じような声を聞いています」と言われた。一般ユーザーのほか、VHSテープの資料を多数保有している図書館などからは「今後、どこに行けばVHSデッキが買えるのか」という問い合わせがあったという。 「われわれが把握するよりも多数の潜在需要があったようです」と同社広報は名残惜しそうに話す。 どのような人がVHSデッキを購入しているのだろうか。同社広報に尋ねたが、ユーザー調査を行っていないので詳細は不明という。ただ、北米の消費者からは、「撮りためたVHSがあるので生産を続けて欲しい」、という切なる願いを記したメールが数多く届く。おそらくは、VHSテープを保有・愛用し続けているユーザーが買い支えているのだろう。 依然として需要が見込まれるならば、生産再開の可能性もあるのではないかと考えたが、「部品メーカーの生産終了によって入手が困難になった部品は複数あるため、可能性は低い」と同社広報。これら部品は、同社でも内製できないという。 これまで販売してきたVHSデッキは、生産が終了したあとも引き続き、修理の依頼に応じる予定。そのための部品は確保しているが、年を経るごとに対応が難しくなりそうだ。 (取材・文:具志堅浩二)