「Z400FXからゼファーまで」カワサキDOHC空冷4発の血統! FX系400ccエンジンの全ロードスポーツを解説
あえての空冷4気筒、高性能化に異を唱えた時代の風「ゼファー」
そして1980年代後半、カワサキの空冷2バルブ系パワーユニットは、すでに高性能をアピールする存在ではなくなっていたが、別の路線で人気を博すこととなった。1989年4月、レプリカモデルが氾濫した時代に、虚飾なしの装備と常用性能重視をうたったゼファーに搭載されて爆発的にヒット。1990年代に入っても好セールスを記録したのである。 Z400FXから続いた空冷4気筒DOHC2バルブエンジンだが、その登場から10年の間に目まぐるしくメカニズムが進化し、高性能モデルの4ストロークエンジンは水冷4バルブが当然の仕様に。そればかりかエンジン型式も多様化したほか、レーサーレプリカ系モデルに至ってはクロスレシオミッションなども採用。車体はアルミフレームが常道となり、フルカウルも当然の装備になった。そしてエンジンは、より高性能で高回転型へ……。 しかし、果たしてそれが普段の走りに必要なのか? 立ち止まって考えるライダーがいてもおかしくはない。レプリカブームの熱狂とその裏に芽生えたかすかな疑問の中、新しく明確な提案をしたのがゼファーだった。 以下はゼファー発売時のカワサキのプレスリリースからの引用。 「ZEPHYR(ゼファー)。それは西からの新風。そしてカワサキのニュージャンルマシンに与えられた名称です。時間を短縮するだけの性能に目を向けるのではなく、ゆったりと時間を感じることの出来る性能を重視し、ライダーが街の風や匂いをスケッチするように走れるマシンとしました。マシン本来の姿を、ライダーの個性を、そしてマシンとの関わりを大切にしています。設計思想は常用のポテンシャル、そして追求したものは美しく、心地よいメカニズムです。(後略)」 カタログにもそのメッセージが貫かれており、最終ページの諸元紹介を除けば、全12ページの内、メカニズムは最後の1ページで紹介されるのみ。表紙を含む残りの10ページは、ゼファーとライダー、そして別の場所にいる彼女とのフィクションストーリーで構成されるという、異色の内容だった。 しかし、ここで綴られたゼファーと乗り手の関係はさながら片岡義男の短編小説を思い起こすもので、当時影響を受けたライダーは意外と多かったかもしれない(筆者もそのひとりだ)。