玉置浩二は稀代のメロディーメーカー 中森明菜、斉藤由貴ら提供楽曲で見せるコンポーザーの手腕
10月31日、玉置浩二がプロデュースした大泉洋の新曲「あの空に立つ塔のように」が、デジタルリリースされた。作詞に大泉洋・月光テツヤ、作曲に玉置浩二と、北海道出身のアーティストが顔を揃えたほか、玉置浩二と交流の深い音楽家・トオミヨウが編曲を手掛けている。俳優、声優、ナレーション、作家、演出家などエンターテイナーとしての多彩な顔を持ち、NHKで放送中の音楽番組『SONGS』の責任者(MC) や、『NHK紅白歌合戦』でも3年連続司会を務めるなど、音楽シーンでも存在感を発揮する大泉洋。同曲は、彼の50歳を記念して行われるライブツアー『生誕50周年記念!!大泉洋リサイタル』のために作られた楽曲である。 【画像】微笑む玉置浩二 繊細でロマンチックなイントロで幕を上げる「あの空に立つ塔のように」は、たゆたうように雄大なメロディが特徴のミディアムチューン。クワイアの趣のあるコーラスや転調もあり、スケール感のある曲に仕上がっているが、サビの途中でいきなり譜割りが細かくなるあたりは、玉置浩二ならではの技が光る1曲といえるだろう。大泉は、音域の広い楽曲を腹式呼吸を存分に使い、しっかりと歌い上げている。さらに、瞬間、瞬間ではあるが、トーンの一音一音の母音を強く刻むように発音する、玉置浩二を彷彿させるアプローチが見られるのも印象的で、玉置浩二メロディの独特のニュアンスをしっかり自分の歌にしている。玉置浩二が引き出した、ボーカル・大泉洋の魅力であろう。 このコラムでは、プロデューサー/作曲家としての玉置浩二にスポットを当てていきたい。1980年代を代表するバンド 安全地帯のボーカリストであり、ほぼ全ての作曲を手掛けている玉置浩二。代表曲「ワインレッドの心」を筆頭に数多くのヒット曲を世に送り出してきた彼だが、バンドやソロでの活動と並行し、意欲的に他アーティストへの楽曲提供も行ってきた。 当時、安全地帯はニューミュージックというジャンルに分類されていたが、今、改めて聴くと、曲調のバリエーションも多く、そのメロディラインは、湿度がありながらもベタっとせず、バンドのサウンドバランスも含めて洒脱な印象さえある。また、メロディの譜割りが歌詞とマッチングしやすい。ゆえに、作詞家が歌詞を手掛けてもフレーズごとにセンテンスが完結しているパターンが多く、ポップスとしての完成度を高めている。玉置浩二の作るメロディには、ヒットのセオリーが詰まっているのだ。加えて玉置浩二のすごいところは、この王道のセオリーを踏襲しながらも、コード進行やサビへ向かうドラマティックな展開、心地よい転調などで“玉置浩二メロディ”をしっかり聴き手の耳に残しているところである。 そして、コンポーザー 玉置浩二が、最も優れている点は、歌い出し(主にAメロ)と、サビに同じくらいのインパクトを作り出せるところだろう。それが顕著に表れているのが、玉置浩二が80年代にアイドルに提供した楽曲群だ。その筆頭として挙げられるのが中森明菜「サザン・ウインド」と、斉藤由貴の「白い炎」だろう。両曲ともAメロとサビのコントラストがはっきりしており、ドラマティックな展開を見せる楽曲である。前述したメロディと日本語のマッチングも然り。シンプルな譜割りを意識しており、日本語と哀愁を帯びたメロディとの相乗効果とティーンネイジャーの女性が歌うことで、刹那的な切実さにつながっている。 かと思えば、同じく斉藤由貴「悲しみよこんにちは」やV6「愛なんだ」は、開放感ある明るいポップチューンと、コンポーザーとして引き出しの多さを見せている。特に「愛なんだ」はラップパートを入れたり、カントリー調のアプローチの中にファンクの要素を入れたりと、その楽曲を歌う人物・グループを自身の中でしっかり咀嚼して、曲を作っていることがわかる。自身の色は残しつつも、アーティストの特性を的確に抑えた曲作りができる柔軟性。そんな玉置浩二の高いプロデュース力とアーティストパワーがかけ合わさることで、「サザン・ウインド」「白い炎」「愛なんだ」というヒット曲が次々と生まれたのだろう。 1980~1990年代にかけ、歌謡曲やアイドルソングとは別の軸で、メジャーシーンを支えていたニューミュージックというジャンル。もちろん、自身の曲でもチャートを賑わせたが、ヒットを連発するアイドルへの楽曲提供も多かった。玉置浩二はもちろん、松任谷由実(呉田軽穂名義)、中島みゆき、細野晴臣、大瀧詠一、佐野元春(Holland Rose名義)、井上陽水、竹内まりや、村下孝蔵、角松敏生など、挙げ始めたら切りがない。しかしながら、自身のバンドである安全地帯、ソロ、そして提供楽曲と、3つの方向からのヒットで歌謡曲とニューミュージックの架け橋となった人物は玉置浩二以外いないだろう。そして玉置浩二ほど、ウィスパーボイスからパワフルなシャウトまで、1曲の中でナチュラルに移行し、安定して聴かせることのできるボーカリストも稀である。 安全地帯の代表曲のひとつである「ワインレッドの心」は、日本語、英語、中国語、ポルトガル語など国内外でカバーされており、カバーしたアーティストは正式リリースされたものだけでも延べ45組を超えている。しかも昭和、平成、令和と時代を越えてカバーされ続けている。名曲である証明だ。数々の名曲を産み出している玉置浩二というメロディメイカーは、その功績も含めて、日本の音楽シーンを語る上で無視できない存在である。
伊藤亜希