石破首相の「沈黙」と米国との対等な軍事同盟
石破茂首相は、首相になってからは持論を封印しています。しかし、特に日米関係では、どこかで本音が出ることもあるのではないか。憲法学者の水島朝穂さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 【写真】自宅でくつろぐ大平元首相 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇「王様は裸」 ――日米関係では、対等は微妙な言葉です。 ◆石破さんの考えるような米国との対等な軍事同盟は、少なくとも石破首相の間に実現するのは無理でしょう。米国はそんな論理には乗ってきません。あるいはとても日本がのめないような条件を出してくるでしょう。 「日米を対等な軍事同盟にする」と主張することは、裏返せば今は対等ではない、ということです。「王様は裸だ」と言ってしまったわけです。 ◇核兵器はどうする ――危うさもあります。 ◆石破さんには、自分の国は自分で守るという自主防衛論が強くあります。自主防衛論を軍事的合理性で突き詰めていくと、最終的には核武装になります。 しかし、石破さんは日本が核武装するとは言っていません。米国の核兵器を日本で運用する核共有論なども言っているので、機能的核武装論者ではあるのですが、非核三原則のうち、「持ち込ませず」の緩和を主張するところでとまっています。 ただ、陸・海・空の自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」が来年度には始動し、ミサイル防衛が一元化されます。これは米国の核戦力に機能的に組み込まれることを意味します。石破さんは積極的に進めていくでしょう。 ◇対等の中身 ――米国と対等になる、という言い方はアピールします。 ◆石破さんの安全保障政策のなかには、安倍(晋三元首相)さんとは違った意味で、野田(佳彦立憲民主党代表)さんと一致できる部分があります。時間がたてば、連立方程式でどうなるかはわかりません。改憲大連立もありえる選択肢です。 首相になる前に日米地位協定の改定に言及したことも、これまでにないことです。沖縄県(民)が求める、米兵犯罪に関する17条の見直しの主張にどう向き合うか、石破さんの言う対等の中身が問われます。 ◇表現力に問題はあるが ――米国と交渉できるのでしょうか。 ◆石破さんは表現力に問題があります。本気なのですが、素直すぎるために、周囲が本気にしません。 ただ、私が石破さんについて思うのは、すぐには動かない、止まる人だということです。頭の回転が速い小泉(純一郎元首相)さんや安倍さんのようにペラペラとうまくしゃべる首相ではありません。 ――多弁ではないよさもあるということですか。 ◆交渉では黙っていることが力になることがあります。実際は迷っているだけでも、相手が否定ととらえて、こちらにあわせてくることがあります。「アーウー首相」といわれた大平(正芳元首相)さんもけっこうやり手でした。 トランプ(次期米大統領)さんからは嫌われることは確実だと思います。これからの日米首脳会談はぎくしゃくするでしょう。しかし、日本の立場からすれば、決してマイナスではありません。 ――期待できますか。 ◆「期待する」とは言えませんが、第2次安倍政権以降、スピード感あふれる政治で国民はひどい目にあいました。石破さんの読み取れない沈黙は、不思議な空気を醸しだします。 だから良い政治になるわけではありませんが、国民に考える時間を作ることはできるのではないでしょうか。それは、石破さんの生真面目さの副次的効果と言えるかもしれません。(政治プレミア)