倉沢杏菜、「野間口徹が憑依した」と言われる演技は、目線や行動観察から<VRおじさんの初恋>
夜ドラ『VRおじさんの初恋』(NHK月~木曜よる10時45分~)は主演の野間口徹が〈現実世界〉と〈バーチャル世界〉2つの世界を行き来しながら、初めての恋や、初めての友情を経験する、新しい形のヒューマンドラマ。野間口徹が〈バーチャル世界〉で過ごす姿・ナオキを演じる倉沢杏菜に、視聴者からは「野間口徹が話しているように感じる。」「おじさんの演技をしてるんじゃなくて、女の子を被ったおじさんの演技している。」と評価の声があがっている。そんな若手の注目女優である倉沢杏菜に、ドラマへや演技についての思いを語ってもらった。 【写真】レプロ30周年主役オーディションに合格した倉沢杏菜 ■「野間口徹が憑依したようだ」と話題 ――「VRおじさんの初恋」に出演され、周りの反響はいかがですか? 放送が始まってから、有り難いことにインスタのフォロワーさんがとても増えて、コメントもたくさん頂けるようになりました。皆さんが、作品を楽しんで下さっているのを感じ取ることが出来て、とても嬉しいです。放送日は毎日投稿しているのですが、撮影のロケで色んな素敵な場所に行ったので、皆さんにもなるべく共有出来たらなという想いで投稿しています。 ――オーディションで【ナオキ役】に選ばれたとのことですが、どんな準備をされていたのでしょうか? 原作を読ませて頂き、原作もオーディション台本もしっかり内容を頭に入れた上で取り組みました。が、実際のオーディションでは緊張していて、あまり覚えてないんです(笑)。合格させていただいた後、プロデューサーさんや監督からは「繊細なお芝居が良かった」と言って頂けたので、原作をしっかり読んで、キャラクターの気持ちを大事にしていたところを評価して下さったのかもしれません。 ――〈バーチャル世界〉の姿・ナオキを演じられたわけですが、演じた野間口徹さんとお話などはされましたか? 撮影前に、本読みという貴重な時間を野間口さんが作って下さいました。私(ナオキ)のセリフを、野間口さんが直樹として読んでくださったり、私が読んだセリフにもアドバイスを下さいました。他にも、目線のことやセリフ回しのことなど、たくさん教えて頂きました。 また、直接この目で見て、野間口さん演じる直樹をできるだけたくさん吸収させて頂こうと、何度も見学に行っていました。見学に行った時は、直樹とナオキについて色々とご相談させていただきました。 ――倉沢さんの演技について、視聴者から「(野間口徹さん演じる)直樹が憑依しているようだ」との声が多くあがっているようですが、どのような役作りをされたのでしょうか? そのように言って頂けて嬉しいです。私が、〈ロスジェネ世代〉という単語をそもそも知らなかったので、それを調べることから始めました。両親に話を聞いたり、街中でその年代の方がいたら、「移動中はどんな行動をしているのか?」と、佇まいや行動などを観察してみたりしました。あとは、先ほども話したように、見学に行かせていただき、現場で野間口徹さん演じる直樹を観察して、直樹が生きてきた時間を理解して、頭の中にイメージを持って演じられるようにしていました。 ――演技が評価されていますが、事務所に所属されてから始められたとのことで、どのように習得されたのでしょうか? 元々、クラシックバレエをしていて、自分の身体を使って表現することが好きだったんです。 でも演技に挑戦したことはなくて。今思えば、中学生の頃、授業参観の時に英語の授業で劇をする機会があり、それを見た母から「杏菜、俳優さんをやってみたら?」と言われたことがきっかけなのかもしれません。元々作品を見るのが好きだったこともあり、インスタグラムのストーリーで、所属事務所が行っていた「レプロ主役オーディション」の宣伝が流れてきて、記念受験的な感じで受けたのを覚えています。 オーディションを受けるまでお芝居をしたことがなかったので、所属後、「そもそもお芝居って何?」という状態からスタートしました。そこから、事務所が用意して下さっていた役者育成カリキュラムに則って、基礎的な技術と同時に、「お芝居を楽しむこと」「チャレンジすることで相手との間に生まれる空気の面白さ」などを学んでいきました。 そこで学んだことを、現場で発揮して、また学んで、という繰り返しです。演技のワークショップは今でも受けていて、日々新たな気付きや発見があります。しかし学ぶなかで、頑張ろうとしすぎて空回りしたり、頭で考えすぎて出来なくなってしまったり、振り出しに戻って「そもそもお芝居ってなんだったっけ?」と悩む時間もありました。でもそこから抜け出せたのは、これもまたワークショップを通してだったので、やはりお芝居って面白いし、すごく貴重な経験をさせていただいているなと感じています。 ――目標にされている俳優さんはいらっしゃいますか? 私自身、特定の目標にしている方がいるというよりは「あの作品に出演しているあの俳優さんが素敵だな」と感じることが多いですね。なので、私も作品ごとに、「この役の俳優さんいいな」と思ってもらえるような俳優になりたいです。また、倉沢杏菜としては「この人の芝居を見ていると幸せになる」と思っていただいたり、作品に引き込むことができる俳優さんになりたいと思っています。 ■井桁弘恵の気遣いと行動力、坂東彌十郎の背中を見て ――今回のドラマでは、井桁弘恵さんとの共演シーンが多かったと思うのですが、いかがでしたか? 私がこれまで現場の経験もあまり多くなくて、撮影中、台本と飲み物をそのまま手持ちで持って行っていたんですね。でもある時、井桁さんが小さめのバッグに台本など必要なものを入れて持ち歩いているのを見て、その方法を真似して、井桁さんにも「真似しちゃいました!」と報告したら「みんなやってるよ」と言われました(笑)。 その他にも、現場での自身の振る舞い方や、坂東彌十郎さん演じる穂波のVR上のお芝居を追求する姿など、直接教えてもらったというわけではありませんが、背中を見て学ばせて頂きました。周りの人への気遣いも忘れずに、自分のやるべきことに対して集中する姿や、オン・オフをはっきり持ってらっしゃるところなど、とてもかっこよくて、自分もそうなれたら良いなと思いました。ある日井桁さんが、撮休ができたタイミングで、ふらっと沖縄に行ってきた話をされていて、そんな行動力もすごく素敵だな~と思っていました。 元々私が、緊張しやすく色々と気を張りがちな性格なので、現場の最初のほうは過剰に気を遣いながら過ごしてしまっていたんですけど、井桁さんに「疲れるからやめなよ~。」と言っていただいたことがあって。そこから「まずは自分の芝居に集中することが一番大切!」ということに気付いて、その後は現場で上手く過ごせたような気がします。 あとは、周りのスタッフや共演者の皆さんの温かさのお陰もあって、錚々たるメンバーがいる中でも、徐々に「私もここにいて良いんだ」と思えるようになったことも、とても大きかったと感じています。 ――四季折々の景色や、幻想的なシーンなど多種多様に出てきますが、〈バーチャル世界〉を演じられるにあたって、普段の撮影と違う点はありましたか? 特殊な撮影方法も多く、VR世界を感じられた瞬間がたくさんありました。水中のシーンでは、グリーンバック+吊るしワイヤーという状態で、初・グリーンバックを経験しました! 裏側の様子を今まで知らなかったのですが、私たちの動きに合わせて、スタッフさんが大勢でロープを持って、手動で上げたり下げたりしてくださっているところや、身体に風を当てて水中を表現してくださっているところを見て、改めてたくさんのスタッフさんの力を借りて出来ている作品なんだなと感じました。 電車のシーンは、スタジオバックがLEDスクリーンになっている状態で、風景を変えながら撮影をしていたんですが、実際に裏では複数のスタッフさんが合図とともに電車を揺らしていたり。その整えられた環境のおかげで、私達も本当に電車に乗っているように感じながらお芝居をすることができました。 ――最終回を前に「Vおじロス」が生まれているようで、倉沢さんや周りの皆さんはいかかですか? 家族もすごくハマっていて、放送が始まった時から「(放送が)終わらないでほしい!ずっと見ていたい!」と言っています(笑)。実は、通っている大学でも、私に気付いてか気付かずなのかは分からないんですが、「VRおじさんってドラマ面白いよね~。」という会話が聞こえてきて、とても嬉しかったですね。 ――今後、挑戦したい作品はありますか? 制服が着られるうちに【学園もの】に出たいです!お茶の間を笑顔にできるような作品にも出たいですし、誰かの心に届くような作品に出たいです。 ■吉田監督のアドバイス「お芝居が止まってもいいからチャレンジしてみる」 ――演出の吉田監督からのアドバイスはありましたか? 吉田監督からは、毎シーンごとに気持ちをリセットすることを教えて頂いたり、「思ったことを包み隠さず出してみて」とアドバイスしていただきました。また、「お芝居をするなかで、何かと完結させようとしがち。失敗しちゃいけないと思ってしまうこともあるが、お芝居が止まってもいいからチャレンジしてみるべき。」と教えて頂いたり、OKテイクとNGテイクがあったとき、「何が違って、どこが良かったのかを覚えておくことが大事」というアドバイスもいただきました。 今思うと、吉田監督のアドバイス通り、頭の中を空にしてチャレンジした時に、OKテイクをいただけていた気がします。ナオキとしての現場での経験を振り返ると、芝居として同じことを繰り返すのではなく、例えば、”足がしっかり地に着いていた”、”相手をしっかり見ていた”など、感覚的なことを念頭に置きながら取り組むことが大事だと実感しました。 ■制作スタッフ皆さんの愛が溢れている現場でした ――ナオキのラストシーンはいかがでしたか? 角度を変えてたくさん撮っているなかで、始めは、思ったよりも出しきれなかったと感じたんですね。モニターを見に行って「う~ん、、、」という顔をしていたら、吉田監督に「もう一回やっていいよ」と言っていただき、再チャレンジしました。OKテイクとなった一回は、ナオキのホナミに対しての思いだけでなく、作品に関わってくださったすべての方への思いが溢れたように思います。 というのも、実は天候の関係でラストシーンの撮影が1週間後ろ倒しになったんです。その1週間の間に、事務所のスタッフさんと、改めてラストシーンについてやこの作品について、そして俳優としての今後に関してなどをお話する時間を作っていただきました。 元々自分では、ナオキはナオキだから、ホナミに対しての感情しか入れちゃ駄目だと思っていたんですね。でもその時に「周りへの感謝や思いなども乗せていいんじゃないかな?」というアドバイスをいただいて。 そのアドバイスを踏まえて、観て下さっている方々も、みんな同じ境遇ではありませんが、ナオキを通して色々な感情を届けたいと思い、結果、最後のシーンは、伝えたいことをすべて乗せて演じることが出来たのではないかと思います。 そしてとにかく、制作スタッフの皆さんの、この作品への愛や、出演者さんに対しての愛が溢れている現場でした。ナオキ(直樹)の「不器用だけど、思いやりや愛がある」姿も、作品全体の温かさがあるからこそ、より一層見て下さっている皆さんに届いたのではないでしょうか。 今まで出演させて頂いた作品も、素敵な現場ばかりだったのですが、今回の作品では、ナオキとして過ごした時間が長かったからこそたくさん助けて頂き、その分、より愛情が深い現場となりました。もちろん最初は、撮影中緊張や不安もあったのですが、徐々に「やりたい」「届けたい」という思いがどんどん溢れてきましたね。 ――作品や登場人物についてはどう思いますか? すごく「人間ってあったかいな」と思える作品だと思います。私たちって、意図せず衝突したり、思ってもいないことを言ってしまったりすることもあるじゃないですか。でもそれって、(本人には自覚がなくても)優しさだったり愛だったり、思いやりだったりがあってこその行動で。直樹(ナオキ)や穂波(ホナミ)のような、思いやるが故にすれ違ってしまうキャラクターたちを見て、そんな人間の温かさを感じ取ることができる作品だなと思います。 二人がすれ違っている姿も、視聴者として見ているうちに、「お互いがお互いのことを好きで、想い合っているだけ」ということに気付くとともに、彼らの世界観を見て(優しさ)に気付くような、本当に素敵な作品だと感じました。 客観的に台本を読んでみたり、現場でモニターを見たりしているときも、常に〈一人でも多くの人に届いて欲しい〉と思いながら過ごせたことは、とても有り難い経験だったと思います。 また、直樹と同世代の方々だけでなく、私のような世代も心から共感できる作品なので、是非最後まで観て頂けると嬉しいです。 (カメラマン/丹野 雄二、ヘアメイク/伊藤 絵理、スタイリスト/曽根 菜月)