古里の経験が創作の原点 大ヒット劇場アニメ「ルックバック」 監督の押山さん(福島県本宮市出身)
漫画が原作の劇場アニメ「ルックバック」が6月の上映開始以降、興行収入17億円を超える大ヒットを記録している。メガホンを取ったのは福島県本宮市出身のアニメーション監督・押山清高さん(42)。生まれ育った古里を思わせる景色が描かれている場面もある。「これからも多くの人に見てもらえる映画を作りたい」と意欲的だ。 今作は、原作ファンが多いのはもちろん、映像化の手法が評価されている。制作の過程で清書され消えてしまう「原画」をそのまま使い、少数精鋭のスタッフ陣が手がけた躍動感ある線が生きる仕上がりとなった。ただ、押山さんは「人の手だけでつくる作品はこれが最後だと思う」と時代の流れを注視している。 アニメーターの仕事の多くも、人工知能(AI)に置き換わるのではないかと考えている。「デッサンを一生懸命練習しても、AIは人間よりよっぽどきれいな絵を描けてしまう」という。だからこそ、「AIに何を描かせるかの方が重要。自分の価値を見いだしていくには、企画力が大事なのではないか」と分析する。
幼い頃、隣に住む高齢の女性がいつも画材を提供してくれた。「何でも挑戦させてくれ、可能性を広げてくれた人。その方がいなければ、今があるとは到底思えない」と振り返る。10年ほど前に亡くなっているが、親戚が写真を持って映画を見てくれたという。 この女性は押山さんが幼い頃に描いた絵を大事にスクラップして残していた。今作にもスクラップブックが登場しており「資料として参考にした」とほほ笑んだ。 小学生で鳥山明さんの漫画「ドラゴンボール」の模写に熱中し、中学、高校では美術部に入った。県内の専門学校を経て、都内に職を求めた。駆け出しの給料は出来高で月数万円。絵描きのプロが集まる世界で挫折も経験した。描くことを辞めなかったのは、自分の「腕」を信じたからだ。制作の手法は変わっても絵や古里への思いは変わらない。「今もわがままに映画を作り続けられるのは、描き続けられる環境を自分で選んできたから。これからも自分のやりたい仕事をしていきたい」と目標を語った。